機体を買うと、目が行くのは機体の点検や飛行申請です。
しかし現場で機体の挙動を最後に決めているのは、手元の送信機の設定です。
スティックモード、スイッチの割当、そしてフェールセーフ。この3つは、飛び立ってからでは直せません。
今回は教則第5版と国土交通省の標準飛行マニュアルを土台に、送信機の設定の考え方と、現場での確認手順を整理します。
送信機の役割|指令はどう流れているか
教則第5版4.4は、無人航空機への指令の流れを次のように説明しています。指令は送信機から機体へ送られ、機体では受信機が指令を受け取り、メインコントローラーからモーター又はサーボを駆動させて機体を操縦する。つまり操縦者が直接動かしているのはモーターではなく、メインコントローラーに渡す「指令」です。
教則4.4の用語の定義も押さえておきましょう。送信機は「操作の指令を機体へ送信する、又は機体情報を受信するデバイス」、レシーバーは「送信機の情報を受け取る受信機又は送受信機」です。送信機の設定とは、この指令の意味を決める作業にほかなりません。同じスティック操作でも、設定が違えば機体はまったく別の動きをします。
また送信機は、操作するだけの道具ではありません。教則4.2は夜間飛行について、操縦者の手元で位置、高度、速度等の情報が把握できる送信機の使用が望ましいとしています。教則4.4も、多くの機体が機体の異常情報を機体本体または送信機のランプや音などで知らせる機能を持つとしています。送信機は、機体の状態を受け取るモニターでもあるのです。
スティックモード|モード1とモード2で何が入れ替わるか
スティック操作と機体の動きの対応(舵の割り当て)は、モードによって異なります。教則第5版4.4が示す回転翼航空機の割り当ては次のとおりです。
| 操作(舵) | モード1 | モード2 |
|---|---|---|
| スロットル(上昇・降下) | 右スティック上下 | 左スティック上下 |
| エレベーター(前後移動) | 左スティック上下 | 右スティック上下 |
| エルロン(左右移動) | 右スティック左右 | 右スティック左右 |
| ラダー(機首の旋回) | 左スティック左右 | 左スティック左右 |
入れ替わるのはスロットルとエレベーター、つまり両スティックの上下操作だけで、エルロンとラダーは両モード共通です。このほか、スティックのニュートラル位置を調整するトリムスイッチを備える機体もあります。
なお飛行機(固定翼機)の場合は、同じ割り当てでも舵の意味が変わります。スロットルはプロペラの推力の増減による速度変化、エレベーターは機体の上昇・降下を受け持ちます(教則4.4)。回転翼機と同じ操作が同じ結果になるとは限らない点も押さえておきましょう。
初期設定は機種ごとに異なります。たとえばDJI製の機体は初期設定がモード2で、アプリの設定画面からモード1・モード3に変更できます(同社ユーザーマニュアル)。
モードの選び方|どちらが正しいかより、混ぜないこと
教則はモード1とモード2の割り当ての違いを示すだけで、どちらかを推奨してはいません。優劣の問題ではなく、選び方の原則は次の3つです。
- 受講した講習や普段の練習と同じモードにする。緊急時にとっさに出るのは、手が覚えている普段の動きです。
- 複数の機体を運用するなら、全機でモードを揃える。現場でモードが混在すると、取り違えがそのまま操作ミスになります。
- 一度決めたら簡単に変えない。切り替えた直後は、頭で分かっていても手が追いつきません。変えるなら十分な練習を挟んでからです。
自分がどちらのモードで、どの指がどの舵を担当しているのか。これを言葉で説明できる状態にしておくと、現場での迷いが消えます。
スイッチ割当|飛行中に触るものと触らないもの
フライトモードの切替、自動帰還の開始、モーターの緊急停止。送信機のスイッチには重要な機能が並びますが、割当の細目は教則では定められておらず、メーカーの設計と設定に委ねられています。運用の原則として、次の整理をおすすめします。
- 飛行中に操作する前提のスイッチ(フライトモード切替など)は、手元を見なくても位置が分かるか、事前に触って確かめる。
- 作動すると危険な機能(モーター停止など)は、誤操作しにくい操作方法(長押しや二段階の操作など)になっているかを説明書で確認する。
- 割当を初期設定から変更したら、その内容を機体ごとに記録し、飛行前確認の項目に加える。共同運用なら全員に共有する。
どのスイッチがどの機能かを「なんとなく」で覚えている状態は、緊急時にそのまま事故につながります。押す前に迷うスイッチを残さないことが基準です。講習では、機能を作動させる操作は覚えていても、解除する操作までは確認していない方が多い印象です。作動と解除は必ずセットで確認してください。
フェールセーフ設定|電波が切れたとき機体はどう動くか
教則第5版5.2は、送信電波や電源容量の減少などにより飛行が継続できない場合、又は継続できないことが予想される場合、あらかじめ飛行制御アプリケーションのフェールセーフ機能により自動帰還モードへ切り替わり、離陸地点へ飛行するとしています。さらにバッテリー残量が極端に少ない場合などは、その場で自動着陸を試みます。
そして重要なのは次の一文です。フェールセーフ発動時の機体の動作を、ホバリング、その地点での着陸、自動帰還などから設定できる機体もある。つまり電波が切れたときの機体の動きは、機体任せではなく、自分が設定した内容で決まります。
あわせて、フェールセーフ発動中にバッテリー残量不足等により飛行が継続できない場合、機体は着陸動作に遷移し着陸を試みるとされています(教則5.2)。帰還の途中でも、残量が尽きればその場の着陸に切り替わり得るということです。だからこそ、帰還高度と残量の警告値には余裕を持たせて設計する必要があります。
| 設定項目 | 確認すること |
|---|---|
| 電波断絶時の動作 | 自動帰還・ホバリング・その場着陸のどれか。周囲の障害物や第三者の状況に合っているか |
| 自動帰還の高度 | 帰還経路上で最も高い障害物より高いか。前の現場の設定値が残っていないか |
| 帰還先の記録 | ホームポイントがいつ・どこで記録されるか。操縦位置を移動した場合の扱いを説明書で確認 |
| 低バッテリー時の動作 | 警告が出る残量と自動着陸に移る残量。警告の時点でどこまで戻れるか |
目視外飛行では、フェールセーフは「あると安心」ではなく装備の要件に関わります。教則4.2は目視外飛行に必要な装備として、電波断絶時の自動帰還や空中停止、GNSS電波異常時の空中停止や安全な自動着陸、電池異常時の発煙発火防止等の機能を挙げています。
電波の基礎知識|混信・マルチパス・アンテナの向き
送信機と機体をつなぐ電波について、教則第5版4.5は運航で使われる主な周波数帯として2.4GHz帯、5.7GHz帯、920MHz帯、73MHz帯、169MHz帯を挙げています。
同じ周波数帯の電波が同時に複数使われている場所では、干渉による混信で誤作動が起きる可能性があります。教則は、飛行前に測定器などで周辺の電波の状態を確認することが望ましいとし、無線LANやWi-Fi、高圧送電線の影響にも注意を促しています。
また教則は、無線通信での「見通しが良い」とは、単に目で見えることではなく、フレネルゾーンと呼ばれる楕円体の空間が確保されている状態だと説明しています。送信と受信のアンテナ間を結ぶ空間に壁や建物などの障害物があると、通信エラーが起こり、通信距離が短くなります。地面も障害物になるため、アンテナの高さを十分に確保することが必要です。参考として、2.4GHz帯・5.7GHz帯で2地点が100m離れたケースでは、重要となる第1フレネルゾーンの半径は2m以下とされています(教則4.5)。
山や建物による反射・屈折で電波が複数の経路を通って届く現象がマルチパスです。到達にわずかな遅れが生じ、一時的に操縦不能になる要因の一つとされます。教則が示す対処は明快で、電波が弱くなり一時的に操縦不能になった場合は、送信機をできるだけ高い位置に持ち、アンテナの向きを変えて操縦の復帰を試みます。
また、送信機のアンテナから発射される電波の強さは方向によって異なります。アンテナの角度は調整できるので、操縦時の送信機の持ち方と機体の位置を考慮して、最適な角度に設定する必要があります(教則4.5)。アンテナを気にせず握り込む癖がある方は、一度自分の持ち方を見直してみてください。
電波法の確認|技適マークと資格が必要な周波数帯
一般向けの機体の多くが使う2.4GHz帯などの小電力の無線局は、無線局免許や無線従事者資格が不要です。ただし条件があります。教則第5版3.2.2のとおり、技術基準適合証明等を受けた適合表示無線設備であること、いわゆる技適マークの表示等で確認できることです。
教則3.2.2が挙げる免許又は登録を要しない無線局の例は、73MHz帯等の微弱無線局(無線設備から500mの距離での電界強度が200μV/m以下)、920MHz帯(最大送信出力20mW)、2.4GHz帯です。また携帯電話の回線(LTE等)を上空で利用する場合は、陸上移動局として携帯電話事業者の包括免許により運用され、基地局によって制御されます。
海外から個人輸入した送信機や機体には技適マークがないものがあり、そのまま国内で電波を発射すると電波法違反になり得ます。購入前に必ず確認してください。
一方、産業用途で使われる5.7GHz帯や169MHz帯(無人移動体画像伝送システムの無線局)は、無線局免許と第三級陸上特殊無線技士以上の資格が必要で、運用に際しては運用調整を行います。またアマチュア無線を用いるFPVは、アマチュア無線技士の資格とアマチュア無線局免許が必要なうえ、利益を目的とした業務には利用できません。
制度の詳細は総務省の電波利用ホームページで確認できます。教則自身も同ページを案内しています。
現場での確認手順|そのまま使える確認表
飛行前の確認は法令上の遵守事項で、教則3.1.2は作動点検の対象として通信系統・推進系統・電源系統・自動制御系統等の作動状況を挙げています。標準飛行マニュアルの点検記録の様式にも、操縦装置の外観・スティックの健全性・スイッチの健全性、そして機体と操縦装置の通信品質の健全性という項目があります。送信機は機体と同格の点検対象です。標準飛行マニュアルは、20時間の飛行毎の点検でも通信系統・自動制御系統が正常に作動するかの確認を求めています。
| 場面 | 確認すること |
|---|---|
| 前日まで | 送信機の充電。ファームウェアの版。モード・スイッチ割当・フェールセーフの設定値。変更したら記録 |
| 現場到着時 | 周辺の電波環境(無線LAN・高圧送電線・他の無人航空機)。アンテナの損傷やがたつき |
| 電源投入後 | 機体とのリンク確立。スティックと舵の対応(当て舵で確認)。トリムのずれ。警告表示の有無 |
| 離陸直前 | ホームポイントの記録。フェールセーフ設定値の読み上げ確認(複数名なら声に出して共有) |
| 飛行後 | メーカー指定の順序での電源断。異常・違和感があれば内容を記録して次回に引き継ぐ |
よくある誤解の整理
| よくある誤解 | 実際 |
|---|---|
| 電波が切れたら墜落する | 多くの機体は自動帰還や空中停止などに移行する。ただしその動きは設定次第(教則5.2) |
| フェールセーフは初期設定のままで安全 | 発動時の動作を設定できる機体がある。現場の環境に合わない設定はかえって危険 |
| 技適は機体だけ確認すればよい | 送信機も電波を発射する無線設備。送信機側の技適マークも確認する(教則3.2.2) |
| モードは慣れれば混在しても平気 | 緊急時に出るのは普段の手の動き。混在は取り違えの原因になる |
| アンテナはどう向けても同じ | 電波の強さは方向により異なる。角度を調整して使う(教則4.5) |
まとめ
送信機の設定は、機体の挙動そのものです。
スティックモードは混ぜない。スイッチは「飛行中に触るもの」と「触らないもの」を分けて把握する。フェールセーフは、電波が切れた瞬間に機体がどう動くかを自分で決めておく。そして設定は、機体や送信機の変更、ファームウェア更新のたびに確認し直す。
教則第5版が示す原則と標準飛行マニュアルの点検項目を土台に、細部はお使いの機体・送信機の説明書で埋めてください。設定画面を一度も開いたことがないまま飛ばしている機能があれば、次の現場の前に開いておきましょう。
送信機を含む飛行前点検の全体像は飛行前点検チェックリスト完全版で整理しています。
電波とあわせて現場で悩みやすいのが磁気とGNSSです。コンパス異常とGPS精度低下の対処もどうぞ。
機体を買ってから現場に出るまでの手順は購入後ロードマップにまとめています。
教則第5版の理解度は教則第5版チェック20問(無料)で確認できます。
登録講習機関講師 フライトデスク 監修



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