機体を買って、飛ばせるようになって、次にぶつかるのが「現場までどう持っていくか」です。
ケースの大きさや見た目の話だと思われがちですが、実務でつまずくのはそこではありません。
止まるのはいつもバッテリーです。飛行機に乗せられない。宅配便が航空便に載らず日程が崩れる。夏の車に置きっぱなしにして、着いたら膨らんでいた。
この記事では、ケースの中身の話に入る前に、まず国が定めた輸送の基準と、教則が定めた保管の要件を押さえます。
運搬で最初に決めるのは、ケースではなくバッテリー
機体そのものは、ある程度雑に運んでも壊れません。プロペラは外せますし、アームは畳めます。壊れても部品を買えば飛べます。
バッテリーは違います。壊れたら飛べないだけでなく、発煙や発火という別の事故につながります。だから輸送のルールは、機体ではなくバッテリーに対して細かく決められています。
順番を間違えないでください。ケースを選んでからバッテリーの入れ方を考えるのではなく、バッテリーをどう運ぶかを決めてから、それが収まるケースを選びます。
講習でも、機体の扱いは丁寧なのにバッテリーだけ助手席に転がしている、という方をよくお見かけします。順番が逆になっている例です。
教則が定める保管の要件は、運搬中もそのまま効く
無人航空機の飛行の安全に関する教則 第5版は、4.6(2)でリチウムポリマーバッテリーの保管方法を具体的に定めています。学科試験の出題範囲であると同時に、そのまま運搬中の要件でもあります。
「保管」と書かれているから駐車場の車内は関係ない、とは読めません。飛ばしていない間はすべて保管です。
| 教則が示す要件 | 運搬のときに何をすることになるか |
|---|---|
| 長期間使わないときは充電60%を目安に保管する | 遠征の前日に満充電まで上げない。移動が長いほど、充電は現地に着いてから行うほうが電池に優しい |
| 端子が短絡しないよう細心の注意を払う。機体コネクタと接続したままにしない | 機体に挿したまま運ばない。端子を覆い、金属工具と同じ仕切りに入れない |
| 発火しても安全を保てる不燃性のケースに入れる | 不燃性の袋や箱を移動中も使う。現場に着いてから入れ替えるのでは間に合わない |
| 突起物が当たって傷つかない状態にする | ネジ、三脚の脚、コーンの先端などと同じ空間に放り込まない |
| 落下させるなど衝撃を与えない | ケースの中で動かないよう仕切る。荷台に平積みしない |
| 高温(35度超)になる環境で保管しない | 夏の車内に置かない。詳しくは後述します |
ワット時定格量(Wh)を自分で出せるようにする
航空も宅配便も、判断の基準はワット時定格量です。この数字が読めないと、持ち込めるかどうかを自分で判断できません。
計算式は国土交通省が公表しています。
- 定格容量がAh表示のとき:ワット時定格量(Wh)=定格容量(Ah)×定格電圧(V)
- 定格容量がmAh表示のとき:ワット時定格量(Wh)=定格容量(mAh)×定格電圧(V)÷1,000
多くのバッテリーは本体にWhが直接印字されています。まずはラベルを読んでください。印字がないときだけ計算します。
メーカー公表値の例を1つ挙げます。DJIの公式仕様によれば、Mavic 3シリーズのインテリジェントフライトバッテリーは定格容量5,000mAh、定格電圧15.4Vで、エネルギーは77Whと記載されています。式に当てはめると5,000×15.4÷1,000=77となり、表示と一致します。
飛行機で運ぶ:2026年4月24日から新しいルールになりました
国際民間航空機関の国際基準が緊急改訂され、日本でも2026年4月24日から新しい取り扱いが適用されています。ドローンのバッテリーは、この告示でいう「予備の電池」に当たります。機器から取り外したものだからです。
「モバイルバッテリー」(他の機器を充電する目的のもの)とは別枠で数えます。ここを混同すると個数の判断を間違えます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 預入(受託)手荷物 | 入れることは禁止。必ず機内に持ち込む |
| 上限 | 160Whを超えるものは持込みも禁止 |
| 予備の電池が100Wh以下 | 個数制限なし |
| 予備の電池が100Wh超160Wh以下 | 2個まで。ただし持っているモバイルバッテリーの容量と個数によって0個から2個に変動する |
| 短絡防止 | 端子に絶縁テープを貼る、個々にケースや収納袋に入れる、金属品と同じ袋に入れない |
| 機内での置き場所 | 座席上の収納棚に入れず、座席ポケットなど手元で管理する |
| 機内での充電 | モバイルバッテリーへの充電も、そこからの他機器への充電も禁止 |
ここで実務的に効いてくるのが160Whの上限です。空撮向けの小型機のバッテリーは、先ほどの例のように100Whを下回るものが多く、通常は問題になりません。
一方で、産業用の大型機のバッテリーは160Whを超えることがあります。超えていれば、預けることも持ち込むこともできません。飛行機に乗る計画そのものが成立しないので、陸送、現地調達、日程の組み替えのどれかを先に決めることになります。
宅配便で送る:航空便に載らない前提で日程を組む
機体を先に現場へ送る、修理に出す、レンタル品を返す。宅配便を使う場面は意外に多いのですが、ここも2025年から2026年にかけてルールが変わっています。
日本郵便は、航空搭載地域あてのゆうパックにリチウム電池等が含まれる場合、告示と国際航空運送協会の規則の条件を満たしたものだけを航空機で輸送するとしています。条件を満たしていない場合や、満たしているか不明な場合は、配達が1日から4日程度遅れることがあると明示しています。
さらに2025年12月31日引受分から、電池を機器と同梱して航空輸送する場合には「充電率が定格容量の30%以下であること」という条件が加わりました。
ヤマト運輸も、2026年1月1日から航空輸送の取り扱いを変更しています。沖縄や北海道をまたぐ区間などが対象で、事前の承諾手続きがない荷物や基準に適合しない荷物は航空輸送ができず、陸海上輸送になるため日数を要するとしています。なお、この事前手続きは法人契約が前提と案内されています。
もう1つ、忘れられがちなのが申告です。発送する荷物に危険物が含まれる場合、荷主には運送人へ通知する義務があります。品名欄に具体名を書き、リチウム電池が入っていることを伝えてください。黙って出すのは、遅延の問題ではなく義務の問題です。
車で運ぶ:危ないのは走行中より駐車中
車での移動そのものは、ケースで固定していればさほど問題になりません。問題は着いてからです。現場に到着し、打ち合わせや昼食で車を離れている間に、車内が何度になっているか。
日本自動車連盟が2012年8月に実施したユーザーテストがあります。外気温35度、晴天、正午から4時間、ミニバン5台での測定結果です。
| 駐車条件 | 車内最高温度 | ダッシュボード最高温度 |
|---|---|---|
| 対策なし(黒) | 57度 | 79度 |
| 対策なし(白) | 52度 | 74度 |
| サンシェード装着 | 50度 | 52度 |
| 窓開け(3cm) | 45度 | 75度 |
| エアコン作動 | 27度 | 61度 |
教則が示す上限は35度です。表を見れば分かるとおり、サンシェードを付けても、窓を3cm開けても、35度は大きく超えます。夏の駐車中の車内は、教則の要件を満たせる場所ではありません。
ダッシュボードの温度はさらに高くなります。送信機やスマートフォンを一時的に置く場所としても、避けたほうが無難です。
徒歩・鉄道・高速バスと、ケースの選び方
公共交通機関を使うときの原則は、飛行機と同じ考え方です。リチウム電池は自分の目の届くところに置き、預けない。
高速バスでは、モバイルバッテリーやリチウムイオン電池を搭載した機器をトランク(床下荷物室)に収納することを禁止し、必ず手荷物として車内に持ち込むよう求める事業者が出ています。ドローンのバッテリーも同じ理屈で扱われる可能性が高いと考えられます。
ケースについては、特定の製品をおすすめすることはしません。判断の軸だけ示します。
- バッテリーが独立して収まるか。機体と同じ仕切りに入る構造だと、教則の「突起物で傷つけない」「短絡させない」を満たしにくくなります
- ケースごと機内に持ち込めるか。飛行機を使うなら、機内持込のサイズに収まる別の入れ物が要ります。大きなハードケースを預けても、バッテリーだけは手元に残ります
- 肩や背中で運べるか。離着陸地点まで舗装路とはかぎりません。片手がふさがる形状は、足場の悪い場所で落とす原因になります
- 中身が一目で分かるか。閉じるときに何が欠けているかが見える構造だと、現場への置き忘れが減ります
- 濡れたときに乾かせるか。ケースの内装が水を含むと、次の現場まで湿ったままになります
よくある誤解の整理
| よくある理解 | 実際 |
|---|---|
| ドローンのバッテリーはモバイルバッテリーの一種だから2個まで | 機器から取り外した予備の電池として扱われる。100Wh以下なら個数制限はないが、モバイルバッテリーの持ち方によって100Wh超の分の枠が変わる |
| 大きくて重いから、バッテリーは預入手荷物にしたほうが安全 | 預入手荷物に入れることは禁止されている。必ず機内に持ち込む |
| 宅配便に出せば、あとは業者が判断してくれる | 危険物が含まれることを荷主が通知する義務がある。申告がなければ航空便に載らず、日程も読めなくなる |
| サンシェードを立てておけば車内の高温対策になる | 実測では車内最高50度。教則が示す35度の上限は超える |
| 移動中は機体にバッテリーを挿しておいたほうが失くさない | 教則は機体コネクタと接続したままにしないことを求めている |
| 膨らんだバッテリーでも、動くうちは持って行けばいい | 膨張は内部でガスが発生している可能性を示す。教則は早めの交換を求めており、持ち出す対象ではない |
移動の前に確認するリスト
そのまま使えるよう、移動手段ごとに分けました。印刷して車に置いておくか、スマートフォンに保存してお使いください。
| 場面 | 確認すること |
|---|---|
| 共通 | バッテリーを機体から外した。端子を保護した。不燃性の袋または箱に個別に入れた。膨張・変形・傷のあるものを外した |
| 共通 | すべてのバッテリーのWhを把握している。ラベルが読めない個体がない |
| 飛行機 | 160Wh超が1個もない。すべて機内持込の手荷物に入れた。100Wh超がある場合は個数を数えた。航空会社の個別ルールを確認した |
| 宅配便 | 品名欄に具体名を書いた。リチウム電池が入っていることを伝えた。航空便に載らない前提の日数で組んだ |
| 車 | ケースが走行中に動かないよう固定した。到着後にバッテリーを車内へ置き去りにしない段取りを決めた |
| 公共交通 | 電池類を手元の荷物に入れた。トランクや荷物室に預ける荷物に電池が残っていない |
| 帰路 | 使用済みバッテリーを放電しきったまま長期保管に入れない。60%を目安に戻す予定を決めた |
まとめ
運搬でつまずく原因は、ほぼすべてバッテリーに集まります。そして判断に必要な数字は、ワット時定格量ひとつです。
手元のバッテリーのWhを全部書き出してみてください。それだけで、飛行機に乗せられるか、宅配便がいつ着くか、何個まで持てるかが自分で判断できるようになります。
そのうえで、教則が示す保管の6項目を移動中も守る。車に置き去りにしない。この2つが守れていれば、運搬で事故を起こすことはまずありません。
次回は離着陸場の設営を扱います。パッドやコーン、看板を実際にどう置くか、立入管理措置との関係も含めて整理する予定です。
バッテリーの寿命・膨張・記録の付け方はドローンのバッテリー管理完全ガイドで詳しく扱っています。運搬の前提になる知識です。
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登録講習機関講師 フライトデスク 監修



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