機体を買い、飛行前点検の項目も覚えた。それでも現場で最初に手が止まるのは、たいていプロペラです。
指でなぞると、縁がわずかに引っかかる。モーターを指で回すと、1基だけ音が違う気がする。
この「わずか」を、飛ばしていいのか、その場で交換するのか。判断の基準はどこにあるのか。
結論から書きます。何をどう見るかは、国の文書が決めています。決まっていないのは、そのあとの判断のほうです。
点検項目は、自分で決めるものではない
教則第5版の「操縦者の行動規範及び遵守事項」には、飛行前の確認としてこう書かれています。
各機器の取付状況(ネジ等の脱落やゆるみ等)、発動機・モーター等の異音の有無、機体(プロペラ、フレーム等)の損傷や歪みの有無、通信系統・推進系統・電源系統・自動制御系統等の作動状況などの確認
プロペラとモーターは、この一文のなかに3回登場します。ネジのゆるみ、モーターの異音、プロペラの損傷や歪み。つまりこの3つは、飛ばす前に必ず見ることが決まっている項目です。
講習では、ここを「メーカーの説明書に書いてあるとおりに」と考えている方が少なくありません。順序が逆です。国が最低限を示していて、メーカーがそこに機種固有の内容を足す。この構造をつかんでおくと、説明書のない中古機を触るときにも迷いません。
点検は3層でできている。飛行前・飛行後・定期
教則第5版の「機体の整備・点検・保管・交換・廃棄」には、運航者は飛行前後だけではなく、機体ごとに定められた一定の期間や一定の総飛行時間ごとに整備点検を行う必要がある、と書かれています。
その「一定の総飛行時間」を数値で示しているのが、国土交通省の標準飛行マニュアルです。①(場所を特定した申請)②(場所を特定しない申請)のいずれも、20時間の飛行ごとの点検を定めています。許可・承認を航空局標準マニュアルで受けているなら、これは守る対象です。
| タイミング | プロペラ・モーターに関する項目 |
|---|---|
| 飛行前 | 各機器は確実に取り付けられているか(ネジ等の脱落やゆるみ等)/発動機やモーターに異音はないか/機体(プロペラ、フレーム等)に損傷やゆがみはないか |
| 飛行後 | 機体にゴミ等の付着はないか/各機器は確実に取り付けられているか/機体(プロペラ、フレーム等)に損傷やゆがみはないか/各機器の異常な発熱はないか |
| 20時間の飛行ごと | 交換の必要な部品はあるか/各機器は確実に取り付けられているか/機体(プロペラ、フレーム等)に損傷やゆがみはないか/推進系統は正常に作動するか |
プロペラの見方は「外観・損傷・ゆがみ」の3語に集約される
この3語は思いつきではありません。国土交通省の飛行日誌の取扱要領にある日常点検記録の様式で、プロペラの点検内容がそのまま「外観、損傷、ゆがみ」と定められています。現場での見方に置き換えると、次のようになります。
- 外観:汚れ、付着物、変色。前縁に付いた土や虫の跡は、そのまま重量の偏りになります
- 損傷:欠け、割れ、ささくれ。前縁の欠けと、根元(ハブ付近)の微細なひび割れを分けて見ます
- ゆがみ:反り、ねじれ。平らな面に置く、または2枚を重ねて縁を合わせると差が出ます
とくに見落とされやすいのが根元のひび割れです。ブレードの先端は目立つので誰でも気づきますが、ハブの近くは指で隠れます。1枚ずつ、光にかざして見てください。
順番を決めておくと、現場で迷いません。そのまま使える形にすると、こうなります。
- バッテリーを外したことを声に出して確認する
- プロペラを1基ずつ、根元から先端へ指の腹でなぞる(引っかかりを探す)
- ブレードを光にかざし、根元と前縁のひび・欠けを見る
- 2枚を重ねて縁を合わせ、反りとねじれの差を見る
- ローターを手で回し、渋り・シャリシャリ音・空転の違いを比べる
- ローターを上下に軽く揺すり、ガタの有無を見る
- 取り付けネジの座りと、折りたたみ機構のヒンジのゆるみを確認する
- 取り付け向き(CW・CCW)が正しいことを最後にもう一度見る
慣れれば3分ほどで終わります。比べる相手が同じ機体のなかにあるのが、この点検の利点です。4基のうち1基だけ感触が違うなら、それが答えです。
異音・振動・ガタ。どこを疑うか
症状から場所を絞る手順を表にしました。ここに挙げた症状はいずれも、その場で原因を特定できないなら飛ばさないという前提で使ってください。推進系統は、飛行中に代替手段がありません。
| 症状 | 疑う場所 | 現場での扱い |
|---|---|---|
| 手で回すとシャリシャリ音 | モーターのベアリング。砂や粉じんの噛み込み | 飛ばさない。整備側の作業になります |
| 1基だけ回転が重い・渋い | ベアリングの劣化、異物の巻き込み、軸の曲がり | 飛ばさない。着陸時の衝撃を受けた直後に出やすい症状です |
| ローターを上下に揺すると動く | 取り付けネジのゆるみ、またはモーター軸のガタ | ネジのゆるみなら増し締め。軸のガタなら飛行中止 |
| ホバリング中に映像が細かく揺れる | プロペラの反り・欠けによる重量の偏り | 全枚を点検し、疑わしい1枚ではなく組で交換 |
| 離陸時だけ高い音がする | プロペラとアームの干渉、ガードのゆるみ | 着陸させて取り付け向きと固定を確認 |
交換の目安。国は時間で、メーカーは回数で言う
ここが、いちばん混乱しやすいところです。整理します。
国の文書には、プロペラの交換時期の数値がありません。教則第5版が交換時期を数値で挙げているのはリチウムポリマーバッテリーだけで、プロペラとモーターについては「各機体メーカーが設定する整備内容を熟知し、必要なタイミングで修理等の整備を行う」と書かれているにとどまります。標準飛行マニュアルも、20時間ごとに交換の必要な部品はあるかを確認せよと言うだけで、判断そのものはこちらに委ねています。
一方、メーカー側は回数で示すことがあります。DJI機については、衝突・曲がり・破損が見られたとき、または離着陸500回程度を交換の目安とする案内が、国内の正規販売代理店のよくある質問で確認できます。ただしこれは全機種一律の数値ではなく、機種ごとの取扱説明書が優先します。
そのうえで、目安を目安として機能させるには積算が要ります。飛行日誌の飛行記録には、飛行時間に加えて製造後の総飛行時間を記載することになっています。この欄を埋めていれば、20時間ごとの定期点検がいつ来るかを毎回計算せずに済みます。離着陸の回数を数えるなら、飛行記録の1行を1飛行として運用するのが現実的です。
モーターについては、交換の目安を回数や時間で示す資料を確認できませんでした。ここは「わからない」と書いておきます。実務では、異音・渋り・ガタ・異常な発熱という点検項目のいずれかに引っかかった時点が交換や整備の入口になる、という運用に落ち着きます。
締結トルクの数値は、国の文書には存在しない
正直に書きます。プロペラの締結トルクについて、教則第5版にも標準飛行マニュアルにも数値の記載はありません。教則で「トルク」が出てくるのは、プロペラの回転で生じる反トルクという物理の説明だけです。
したがって、この記事で「何ニュートンメートルで締める」と書くことはできません。根拠がないからです。締結トルクは、必ず自分の機体のメーカー公式マニュアルで確認してください。トルク管理を求める機体には、指定値と、多くの場合は専用工具の指定があります。
教則がトルクに関して触れているのは、エンジン機についての一文です。エンジン駆動の場合には機体の振動が大きいため、ネジ類の緩みなどを特に注意して点検する必要がある、とあります。振動の大きい機体ほど、締結の確認頻度を上げる。この考え方は電動機にもそのまま使えます。
取り付け向きの間違いは、教則が名指しで注意している
教則第5版の「モーター、ローター(プロペラ)」には、ローターは通常、時計回転(CW)と反時計回転(CCW)の回転方向に合わせた形状になっており、モーターの回転方向に合わせて取り付けるよう注意が必要だと書かれています。
これは知識の問題ではなく、手順の問題です。現場で1枚だけ交換したとき、CWとCCWを取り違える。急いでいるとき、暗いとき、寒くて手がかじかんでいるときに起きます。
防ぐ方法はひとつで、取り外す前に必ず1枚ずつ写真を撮ること。機体の刻印や色分けは機種によって流儀が違うため、記憶に頼らないのが確実です。同じ理由から、予備プロペラはCW・CCWを分けて保管してください。
なお教則は、電動機のモーターについて、ブラシレスモーターの特徴としてモーター内部の清掃やブラシの交換が不要であること、静音であること、長寿命であることを挙げています。ブラシレスは分解して直す部品ではないと理解しておくのが実務上は安全です。異常があれば、モーターごとの交換か、メーカー・整備業者への依頼になります。
記録に残すところまでが点検
特定飛行を行う場合、飛行日誌の携行と記載が義務です。飛行日誌は、飛行記録・日常点検記録・点検整備記録の3つで構成されます。プロペラとモーターに関係するのは後ろの2つです。
| 記録の種類 | いつ書くか | プロペラ・モーターの扱い |
|---|---|---|
| 日常点検記録 | 飛行させる都度 | プロペラは外観・損傷・ゆがみ、推進系統はモーター又は発動機の健全性を、正常・異常などの文言で記載 |
| 点検整備記録 | 定期点検・修理・改造を行った都度 | 交換した場合は交換部品名を含めて内容を記載。実施の理由と総飛行時間も記入 |
プロペラを1枚替えたら、それは点検整備記録に残す出来事です。飛行日誌の取扱要領では、日常点検で見つけた不具合と、それを直した整備の記録は、点検整備記録に適切に記入しなければならないとされています。交換して終わりにしない。この一手間が、あとで不具合の傾向を追えるかどうかを分けます。
同じ取扱要領には、機体の設計製造者が日常点検の項目を指定している場合はそれに従う、指定の様式があるときは様式2に代えてそれを日常点検記録とすることができる、という定めもあります。メーカーの点検表を使っているなら、それがそのまま日常点検記録になり得るということです。二重に書く必要はありません。
なお、講習や審査の場では、点検そのものより記録の抜けのほうが指摘されやすい印象があります。プロペラを替えた日、理由、そのときの総飛行時間。この3つが空欄のままになっていないか、月に一度は見返してください。
よくある誤解の整理
| よくある理解 | 実際 |
|---|---|
| プロペラの交換時期は法令で決まっている | 国の文書に数値はありません。決まっているのは点検の項目と、20時間ごとに交換の要否を確認することです |
| 見た目に問題がなければ使い続けてよい | 接触や落下の履歴があるものは、外観が無事でも内部にひびが入っていることがあります |
| ブラシレスモーターはメンテナンスフリー | 教則が言う「メンテナンスが容易」は、内部清掃やブラシ交換が不要という意味です。異音・ガタの点検は必要です |
| 1枚だけ傷んだら、その1枚を替えればよい | 回転バランスの観点では組での交換が無難です。少なくとも同じアームの対は揃えます |
| プロペラガードを付ければ点検は軽くてよい | ガードは第三者被害の低減策であり、点検項目を減らす根拠にはなりません |
まとめ
プロペラとモーターの点検は、覚えることが少ない代わりに、毎回やるかどうかで差が出ます。
国が決めているのは、ネジのゆるみ・モーターの異音・プロペラの損傷やゆがみを見ること、20時間ごとに交換の要否を確かめること、そして結果を飛行日誌に残すこと。ここまでは議論の余地がありません。
決まっていないのは、交換の判断と締結トルクの数値です。ここを埋めるのは、あなたの機体のメーカー公式マニュアルだけです。現場に出る前に、そのページを一度開いておいてください。
そして、迷ったときの基準はひとつです。原因が特定できない異音・振動・ガタを抱えたまま離陸しない。推進系統は、飛んでからでは何もできない場所です。
- 点検の全体像から入りたい方はドローン飛行前点検チェックリスト完全版へ。本記事はその推進系統だけを深掘りした位置づけです。
- もうひとつの消耗品についてはドローンのバッテリー管理完全ガイドにまとめています。教則が数値で交換時期を示しているのはこちらです。
- 接触の多くは離着陸時に起きます。ドローンの離陸地点の選び方もあわせてどうぞ。
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- 買ったあとの流れ全体は購入後ロードマップで整理しています。
登録講習機関講師 フライトデスク 監修



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