飛ばすか中止か|ドローンのコンパス異常とGPS精度低下 起きやすい場所と現場の対処

現場の判断

「コンパス異常です」

「衛星の数が不足しています」

現場で機体の電源を入れたとき、いちばんよく出会う警告がこの2つだと思います。

この2つは、別の系統の異常です。コンパスが教えているのは機体の「向き」、GNSSが教えているのは機体の「位置」。狂ったときの症状も、取るべき対処も違います。ところが現場では、この2つが混ざったまま「電波が悪い」のひとことで処理されていることが少なくありません。

今回は、この2つを仕組みから切り分けます。どこで起きやすいか、警告が出たら何をするか、飛行中に出たらどう降ろすか。そこまでを整理します。

最初に一番大事なことコンパス異常とGPS精度低下は別系統の異常です。狂っているのが「向き」なのか「位置」なのかを切り分けてから対処します。切り分けができないまま飛ばすのは、原因不明のまま飛ばすのと同じです。離陸前なら、キャリブレーションを繰り返す前に場所を変える。飛行中なら、原因を探しながら飛び続けず、まず視認できる範囲へ戻して降ろします。

機体は「向き」と「位置」を別々の仕組みで知っている

切り分けの前提として、機体が何をどのセンサで知っているかを押さえておきます。教則は、フライトコントロールシステムをこう説明しています。

フライトコントロールシステムは、搭載されている各種センサ(GNSS、ジャイロ、加速度、方位、高度等)からの情報や送信機から発信された情報を処理し機体を制御するための信号を送るシステムである。

(無人航空機の飛行の安全に関する教則 第5版 第4章 4.4 機体の構成)

教則が同じ節に載せているデバイスの一覧を、現場の言葉に置き換えるとこうなります。

デバイス 知っていること 狂うと起きること
地磁気センサ 機体の向き(方位) 意図しない方向へ飛ぶ
GNSS受信機 地球上の位置と高度 位置保持が甘くなる・流される
IMU(ジャイロ+加速度) 傾きと回転(姿勢) 姿勢そのものが保てない
気圧センサ 高度の変化 高度維持が不安定になる

ここで押さえておきたいのは、GNSSがどれだけ正確でも、機体の向きは分からないということです。位置と向きは別のセンサが担っています。だから「衛星がたくさん見えているのに、機体があらぬ方向へ走る」ことも、「コンパスは正常なのに、位置がじわじわ流れる」ことも、どちらも起こり得ます。

症状を見て、どちらの系統が狂っているのかを推定する。それがこの記事全体の骨組みです。

コンパスが狂う場所は、足元だけではない

コンパス、つまり地磁気センサは、地球の磁気を検出して方位を測っています。鉄と電流に影響を受けることは教則が明記しており、具体的には高圧線、変電所、電波塔、鉄材を多く使用された建物、新幹線や電車の鉄道、自動車、鉄板など鉄材が多く埋め込まれた場所が列挙されています。離陸地点の足元にこれらがないかを見る話は、前回の離陸地点の記事で扱いました。

今回付け加えたいのは、飛行中に自分から磁気源へ寄っていく仕事があるという点です。

橋梁の点検では、鉄の桁の下へ機体を入れます。屋上や外壁の点検では、鉄骨構造のすぐ脇を飛ばします。送電線や鉄塔の近接撮影は、教則が名指しで挙げている磁気源そのものに近づく作業です。離陸地点がどれだけ良くても、飛行経路の途中に磁気源との近接が組み込まれているのがこの種の仕事です。

近接飛行は「寄っていく」仕事点検飛行の計画を立てるときは、構造物との距離が最も縮まる地点を経路上で特定して、そこでコンパスに異常が出たらどちらへ離すかを先に決めておきます。異常が出てから考えると、狂った方位表示を頼りに逃げることになります。

なお、コンパスは正常でも、方位には偏角という性質があります。

地磁気センサは正常な方位を計測しない場合があるが、それは磁力線が示す北(磁北)と地図の北に偏角が生じるためである。

(教則 第5版 第4章 4.5 機体以外の要素技術「磁気方位」)

磁気の北と地図の北はもともと一致していません。センサが正常でもずれは存在する、という前提は頭の隅に置いておいてください。

キャリブレーションの2つの誤解

コンパスの話をすると、必ずキャリブレーションの質問が出ます。よくある誤解が2つあります。

誤解1「飛行前の儀式として毎回やるもの」

教則は、キャリブレーションについてこう書いています。

センサ類は、キャリブレーションを必要とするものが多いため、各機体で指定された方法で、キャリブレーションが正しく行われているかを常に注意する必要がある。

(教則 第5版 第4章 4.4 機体の構成)

「常に注意する」のは、キャリブレーションが正しく行われているかどうかです。毎回実施せよ、とは書かれていません。「各機体で指定された方法で」が肝心なところで、いつやるべきかは機体ごとにメーカーが指定しています。

たとえばDJIは、サポートページの「コンパスキャリブレーション操作ガイド」で、実施すべき場面としてフライト場所が移動したときや、アプリにコンパス異常の表示が出たときを挙げています。裏を返せば、同じ場所で問題なく飛べているのに、儀式として毎回繰り返すことは求められていません。お使いの機体のマニュアルで、指定されたタイミングを確認してください。

誤解2「警告が出たらキャリブレーションで消すもの」

磁気キャリブレーションは、教則の定義では「飛行前にその場所の地磁気を検出して方位を取得し、GNSS機能やメインコントローラーに認識させること」です。つまりその場所の磁場を基準として学習し直す操作です。磁気源のすぐそばでこれをやれば、歪んだ磁場を「正しい北」として学習します。

DJIの同じガイドも、磁場が強い場所や大きな金属の近く、たとえば大型の電気設備、駐車場、船舶、地下に鉄筋や鉄柱がある建物のエリアなどでキャリブレーションを行わないよう注意しています。

警告が出たときの正しい順番は「やり直す」ではなく「場所を変えてからやる」です。数メートル動かすだけで通ることは珍しくありません。

最も危ない進み方同じ場所でキャリブレーションを3回、4回と繰り返し、たまたま通ったので離陸する。通ったことは、学習した磁場が正しいことを意味しません。歪んだ基準を受け入れた機体は、磁気源から離れた瞬間に「覚えた北」と「本当の北」のずれを抱えて飛ぶことになります。

GPSの素の精度は「数十メートル」から始まっている

次にGNSS側です。普段の機体があまりに安定しているので忘れがちですが、衛星測位の素の精度は、実はかなり粗いものです。教則の記載を見てください。

GPS測位での受信機1台の単独測位の精度は数十mの精度である。測位方式として固定局と移動局の2つの受信機を使用するRTK(Real Time Kinematic)やDGPS(Differential Global Positioning System)などの技術が確立され、これらの測位方式は数cm~数mレベルの精度の高い測位が可能である。

(教則 第5版 第4章 4.5 機体以外の要素技術「GNSS」)

受信機1台の単独測位で数十m。一般的な空撮機がホバリングでぴたりと止まって見えるのは、複数の衛星システムの併用や各種の補正、そしてビジョンセンサなど他のセンサとの組み合わせで成り立っている結果です。条件が崩れれば、精度は素の値へ向かって落ちていきます。

測位の原理として、GNSSは最低4個以上の衛星からの信号を同時に受信して位置を計算し、安定飛行のためにはより多くの衛星からの受信が望ましい、というのも教則の記載です。アプリの衛星数の表示は、この「計算の材料がいくつあるか」を見ていることになります。

もうひとつ、覚えておくと現場で効く記載があります。

一般的に位置精度は、水平方向に比べ高度方向の誤差が大きくなる。

(教則 第5版 第4章 4.5 機体以外の要素技術「GNSS」)

GNSSは高さ方向が苦手です。多くの機体が高度維持に気圧センサなどを併用しているのはこのためです。

GPSが弱る場所と、弱る日

教則は、GNSSの測位精度に影響を及ぼすものとして4つを挙げています。現場での現れ方と並べます。

教則が挙げる要因 現場でどう現れるか
GNSS衛星の時計の精度 利用者側では対処できない領域
捕捉しているGNSS衛星の数 空の見える範囲が狭い場所で減る
障害物などによるマルチパス ビル街や水面近くで位置が乱れる
受信環境のノイズ 周囲の電波環境や機体側の要因

場所でいえば、機体から見えている空の広さがそのまま衛星の数に効きます。ビルの谷間、山あいの谷筋、橋の下、軒先。空が細長くしか見えない場所では、衛星は数も配置も悪くなります。さらにビルのガラス面や水面は電波を反射し、反射してきた信号が混ざるマルチパスの原因になります。開けた場所では素直だった機体が、構造物に寄った途端に落ち着かなくなるのは、この2つが同時に効いてくるからです。

「日」の側の要因もあります。太陽の活動です。大規模な太陽フレアが発生すると、電離圏の乱れによってGNSSの測位誤差が増大することがあり、情報通信研究機構(NICT)が宇宙天気予報として監視・注意喚起を行っています。2026年1月にも大規模な太陽フレアの発生が報告され、GPSを用いた高精度測位への影響の可能性が示されました。頻繁に起きることではありませんが、「機体も場所も昨日と同じなのに今日は調子が悪い」という日の、考えられる要因のひとつです。

位置情報の仕事は特にRTKを使う測量や、自動航行での精密な飛行は、GNSSの状態への依存が手動飛行より深くなります。教則も、自動操縦では手動操作よりも高精度なGNSS測位が必要であり、測位精度が悪化すると設定した経路と実際の飛行経路の誤差が大きくなると述べています。位置精度が仕事の品質に直結する日は、宇宙天気の情報も確認する価値があります。

症状から系統を切り分ける

ここまでの知識を、現場で使える形にします。機体の挙動から、どちらの系統を疑うかの目安です。

症状 まず疑う系統 最初の一手
ホバリング中に円を描くように流れる コンパス系 戻して降ろす。同じ場所で再離陸しない
位置がじわじわ流れる・止まりが甘い GNSSの精度低下 開けた空の下へ移動して様子を見る
急に位置保持が消えて風に流される GNSSの喪失 当て舵で保持し視認できる位置へ戻す
画面の機首方位が実際の向きと違う コンパス系 離陸前なら中止。場所を変えて再確認

ホバリング中に機体が円を描きながら流れていく症状は、操縦者の間で俗に「トイレットボウル現象」と呼ばれ、方位の情報が狂ったまま位置制御が働き続けるときに出るとされる典型的な症状です。向きの基準が狂っているので、機体は「位置を直そう」とするたびに違う方向へ動いてしまいます。

この表は目安です症状の出方も画面の表示も、機種とファームウェアによって違います。この表は系統を推定するための目安であって、確定診断ではありません。異常が出た機体は、飛行ログを残した上で、メーカーの窓口や整備で確認してください。

飛行中にコンパス異常が出たら

飛行中のコンパス異常で、まずやめるべきことがあります。自動帰還に任せることです。自動での帰還は、機体が自分の位置と向きを正しく把握していることを前提に組み立てられています。向きの基準が狂っている疑いがあるときに、その基準で飛ぶ自動飛行へ機体を預けるのは、順序が逆です。

教則は、センサの機能不全への備えをはっきり書いています。

安定した飛行に使われているGNSS受信機や電子コンパス、気圧センサなどが何らかの原因により機能不全に陥ったときには手動操縦による危険回避が求められる。

(教則 第5版 第5章 5.2 操縦者に求められる操縦知識)

やることは3つです。磁気源から離す、視認できる位置へ手動で戻す、降ろす。構造物の近接中に異常が出たなら、事前に決めておいた方向へ距離を取ります。方位表示は信用できない状態なので、画面の地図ではなく、目で見た機体の姿勢と動きを頼りに操作します。目視外や遠方でこれが起きると打てる手が一気に減るので、近接飛行の日は機体を視認できる範囲に収めておくことが、そのまま保険になります。

講習でこう答えています「コンパス警告が出たらまず何をしますか」と受講生に聞くと、いちばん多い答えは「キャリブレーションをやり直す」です。私は「まず、飛行を終わらせる操作」と答えています。原因の調査も、キャリブレーションも、機体が地面にあれば落ち着いてできます。空中でできるのは、安全に降ろすことだけです。

飛行中にGPSが弱ったら

GNSSの補助が外れた機体は、位置保持をやめて風に流され始めます。DJI機でいえば、GNSSもビジョンセンサも使えなくなったときに切り替わるATTIモードがこの状態です。姿勢は保ってくれますが、位置は保ってくれません。スティックを離せば止まる、という普段の前提が消えます。

このときの操作を、教則は具体的に書いています。

ホバリング中GNSS受信機能を無効にすると、機体周辺の気流の影響で水平位置が不安定となるためエレベーター操作及びエルロン操作により水平位置を安定させホバリング飛行を維持させる。

(教則 第5版 第5章 5.2 操縦者に求められる操縦知識)

つまり、流される分を前後左右の当て舵で打ち消し続ける操縦です。着陸も同じで、当て舵でホバリングを安定させながら降下させます。言葉にすれば1行ですが、これは練習していなければその場ではできない操作です。

講習でGNSSによる位置推定を使わない訓練をすると、それまでぴたりと止まっていたホバリングが、数秒で目に見えて流れ始めます。ここで初めて、普段の飛行がどれだけセンサに支えられていたかが体感として分かります。この訓練を経験しているかどうかが、実際にGNSSが弱った日の余裕の差になります。

流される前提で考える位置保持が消えた機体は風下へ流れます。ですから対処の第一歩は操作ではなく、「いま流されたらどこへ行くか」を飛行前に知っておくことです。風下側に人や道路がある配置で飛んでいたなら、GNSSを失った瞬間に機体はそちらへ向かいます。風下に何を置くかは、GNSSが正常なうちにしか選べません。

飛ばすか中止かの線引き

ここまでを、離陸前と飛行中の判断に落とし込みます。

離陸前

  • コンパス警告が出たら、キャリブレーションのやり直しより先に、まず場所を変える
  • 場所を2回変えても警告が消えないなら、その日は機体を疑い、飛ばさない
  • 衛星数が、同じ場所・同じ時間帯の普段より明らかに少ないときは、理由が説明できるまで離陸しない
  • 画面の機首方位と、目の前の機体の実際の向きが一致していることを毎回確認する
  • 「いまGNSSが消えたら、この機体をどこへ降ろすか」に答えられてから離陸する

2つ目は見落とされがちです。場所を変えても警告が続くなら、原因は場所ではなく機体側にある可能性が出てきます。センサの故障や機体内部の磁化は、現場では切り分けられません。その日は飛ばさず、整備に回す判断になります。

飛行中

飛行中の原則はひとつだけです。原因の切り分けは地上でやる。空中で探さない。

症状に気づいてから「コンパスかな、GPSかな」と考えながら飛行を続けると、その間も機体は狂った基準で飛んでいます。疑いを持った時点で戻し始めて、降ろしてから考える。先ほどの症状の表は、降ろすまでの操作を選ぶために使うものであって、飛行を続ける理由を探すためのものではありません。

そして、戻して降ろしたことは、中断であって失敗ではありません。依頼主には「機体の方位系統に異常の兆候が出たため、安全のため一度降ろして確認します」と、系統の言葉で説明できれば十分です。ここで説明できるかどうかも、切り分けの知識の使いどころです。

よくある誤解の整理

よくある誤解 実際はどうか
キャリブレーションは毎回の儀式 実施場面は機体ごとに指定がある。場所の移動時や警告時が典型
警告はキャリブレーションで消せばよい 場所の磁場が原因なら、学習し直しは歪んだ基準の受け入れになる
衛星数が多ければ位置は正確 数だけでは決まらない。マルチパスやノイズでも精度は落ちる
GPSが正常なら方位も分かる 位置と向きは別系統。コンパスが狂えば位置が良くても危ない
異常が出たら自動帰還で戻せばよい 自動飛行は正常なセンサが前提。手動での危険回避が教則の求め

まとめ

この記事の要点をまとめます。

  • コンパスは「向き」、GNSSは「位置」。別系統の異常であり、症状も対処も違う
  • コンパスの磁気源は足元だけでなく飛行経路上にもある。近接飛行は磁気源に寄っていく仕事
  • キャリブレーションはその場所の磁場を学習する操作。警告が出たら、やり直す前に場所を変える
  • 実施のタイミングは機体ごとにメーカーの指定がある。毎回の儀式ではない
  • 単独測位の素の精度は数十m。普段の安定は補正と併用センサの上に成り立っている
  • GNSSは空の見える広さで弱る。まれに太陽活動で弱る日もある
  • 円を描いて流れるならコンパス系、じわじわ流れるならGNSSの精度、位置保持が消えたらGNSSの喪失をまず疑う
  • 飛行中の異常は自動帰還に預けず、手動で視認できる位置へ戻して降ろす
  • GNSSなしのホバリングと着陸は、教則が求める操作。練習していなければその場ではできない
  • 原因の切り分けは地上でやる。空中で探さない

コンパスとGNSSの異常は、気象と違って予報がありません。その代わり、起きやすい場所とそのときの症状は、かなりの部分まで事前に知っておくことができます。

知っていれば、警告は「困りごと」ではなく「情報」になります。どの系統が、なぜ、いまの場所で狂ったのか。それを言葉にできるところまでが、この記事で渡したかった判断の枠組みです。

ご注意本記事は、無人航空機の飛行の安全に関する教則(第5版・公布 令和8年7月7日/適用 令和8年7月14日。引用は原文で確認)、DJIサポート「コンパスキャリブレーション操作ガイド」(2026年8月18日閲覧)、および情報通信研究機構(NICT)宇宙天気予報の公開情報(2026年1月の大規模太陽フレアに関する報告)に基づく解説です。キャリブレーションの実施場面に関する記載はDJIのものであり、他社製品では指定が異なる場合があります。症状と系統の対応は目安であり、実際の挙動は機種・ファームウェア・環境によって異なります。本記事の内容は特定の飛行の安全を保証するものではありません。最終的な飛行可否の判断は機長の責任において行ってください。
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登録講習機関講師 フライトデスク 監修

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