機体を買い、登録を済ませ、飛行許可・承認も取った。それでも現場に出る前に、もうひとつ確認しておくものがあります。保険です。
ドローンの保険には自動車のような強制加入の制度がなく、後回しになりやすい項目です。
ところが2025年10月1日から、総重量25kg以上の機体については、保険に入っていないこと自体が飛行許可・承認の壁になりました。
この回は、保険の型の違い、必須になる飛行、申請書に書く内容、加入前に確認する項目を、国が出している文書の記載にそろえて整理します。
1. 強制保険はない。それでも賠償責任は任意ではない
教則第5版 2.3.3 は、保険についてこう書いています。
無人航空機の保険は、車の自動車損害賠償責任保険(自賠責)のような強制保険はなく、すべて任意保険であるが、万一の場合の金銭的負担が大きいので、保険に加入しておくとよい。
加入は任意です。しかし賠償責任のほうは任意ではありません。教則2.2は、衝突や墜落で死傷者が出た場合に「業務上過失致死傷」などの刑事責任を負う場合があること、そして操縦者は被害者に対して民法に基づく損害賠償責任を負う場合があることを、別々の項目として挙げています。
つまり「入らなくてよい」のではなく、「入るかどうかは自分で決めるが、責任は発生する」という構造です。ここを取り違えると、保険の検討が最後まで先延ばしになります。
国の側も、この点を放置してはいません。教則5.1は、第三者に損害を与えた場合に備えて賠償能力を確保しておくことが望まれること、その対応として損害賠償責任保険への加入が有効と考えられること、そして国土交通省は加入している保険の確認など賠償能力を有することの確認を許可・承認の審査の際に行っていることを述べています。
一等の技能証明が必要なカテゴリーⅢ飛行では、さらに一段踏み込み、飛行の形態に応じたリスク評価の結果に基づいて必要な保険に加入することが望ましい、としています。金額も補償内容もリスク評価から逆算するという考え方です。
2. 保険は大きく2つの型に分かれる
教則は、無人航空機の保険を2つに分けています。名前が似ているので、現場では混ざりがちです。
| 型 | 何に対する保険か | 教則が付けている注意 |
|---|---|---|
| 機体保険 | 機体やカメラ自体の損傷に対する保険 | 機体が見つからないと保険が適用されないケースがある。荷物輸送では、輸送物が保険対象に含まれるかを確認する |
| 損害賠償責任保険 | 運航したことによって起こる損害に対する保険(対物・対人) | 許可・承認の審査では、この加入状況などによって賠償能力の有無が確認される |
守る相手が違います。機体保険は自分の財産を守るもの、損害賠償責任保険は第三者への賠償に備えるものです。「保険に入っている」と言うとき、どちらの話なのかを区別しないまま申請すると、後で足りないほうに気づくことになります。
もうひとつの軸は、契約の「単位」
型と並んで見落とされやすいのが、何を単位に契約するかです。機体を1機ずつ記名する形がよく知られていますが、それだけではありません。機体を特定せず、操縦者を被保険者として、その人が飛ばす機体を対象にする設計の商品も実在します。
機体を何台か持っている方や買い替えの予定がある方は、こちらのほうが管理が楽になることがあります。逆に高額な1機を長く使うなら、記名する形が合うこともあります。
実例を挙げます。飛行支援アプリに付帯する形で提供されている保険に、損害賠償の補償対象を機体ではなく契約者本人としているものがあります。機体の台数に制限がなく、期間中に機体を買い足しても登録手続きは不要。業務利用とホビー利用の両方が1つの契約に入っており、借りた機体や他人名義の機体でも契約者本人が操縦していた事故なら対象になる、と公式のよくある質問に書かれています。
この商品は、申請書に書く保険会社名・商品名・補償金額を、記載例として公式サイトが公開しています。ここまで示されていれば、5章の記載でつまずくことはありません。参照:SORAPASS care(運営 ブルーイノベーション、引受 損害保険ジャパン)
推奨ではなく、契約の単位という軸が実在することを示す例です。商品ごとの比較は別記事で扱います。
3. 総重量25kg以上は2025年10月1日から加入が必須
国土交通省航空局は2025年9月10日に、次の内容を告知しています。
2025年10月1日以降に新たに提出する飛行許可・承認申請から、総重量25kg以上の無人航空機を飛行させる場合は、「第三者賠償責任保険の加入」が必要です。
根拠は審査要領(カテゴリーⅡ飛行)です。4-3-1(19)に、総重量25kg以上の機体を飛行させる場合には、第三者の負傷や交通障害等の不測の事態が発生した場合に十分な補償が可能となる第三者賠償責任保険に加入していること、と定められています。
この変更は教則にも反映されました。教則第5版の改訂内容の筆頭が「保険の付保範囲拡大の反映(第2章 2.3.3)」です。前の版では、保険が求められる飛行としてレベル3.5飛行だけが挙げられていました。第5版では、そこに総重量25kg以上の場合が加わっています。
判定は「総重量」。機体本体の重さではない
25kgの線引きで迷いやすいのが、どの重さで測るのかという点です。審査要領は、機能・性能の確認書について、総重量は申請を行う飛行形態で確認すること、それが困難な場合には最大離陸重量を記載すること、としています。
機体本体だけの重さではありません。その飛行で実際に積むバッテリー、カメラ、散布タンクの中身までを含めた重さで考えることになります。
機体単体では25kgを下回るのに、満載にすると超える構成は珍しくありません。同じ機体でも、その日の積載によって手続きの前提が変わり得るということです。
なお教則では、機体の性能を説明する章では「最大離陸重量25kg以上」という言い方が使われます。保険の話か機体の分類の話かで、見るべき数字が変わります。
4. レベル3.5飛行は、以前から保険が要件
もうひとつ保険が必須になるのが、レベル3.5飛行です。審査要領 5-4(3)c)カ)は、補助者や看板の配置といった立入管理措置に代えて機上カメラを使い、移動中の車両・列車・船舶の上空を一時的に横断する飛行について、次の3つをそろえることを求めています。
- 機上カメラと地上のモニター等で、進行方向の飛行経路の直下と周辺に第三者の立入りがないことを確認できること
- 操縦者が、飛行させる機体の種類・重量に対応した技能証明(目視内飛行の限定解除を受けたもの)を保有していること
- 第三者の負傷や交通障害等の不測の事態に備え、十分な補償が可能な第三者賠償責任保険に加入していること
ここで多くの方が知りたくなるのが補償金額です。航空局の説明資料は、具体的な補償金額については飛行の内容等によっても異なると考えられることから、必要な補償額を検討のうえ実施事業者において設定するように、としています。
つまり国は「十分な補償が可能なこと」を求めていて、金額そのものは示していません。ここは「メーカーによる」でも「保険会社による」でもなく、運航者が飛行の内容から決める部分です。
5. 申請書に書くのは4つの項目
審査要領 2-2-1(8)「その他参考となる事項」は、第三者賠償責任保険への加入状況を把握するため、その保険の内容を記載することとしています。書く中身は次の4つです。
| 記載する項目 | どこを見れば分かるか | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| 加入状況 | 保険証券、加入者証 | 機体を購入したときに自動で付帯していた保険の存在を、本人が把握していないことがある |
| 保険会社名 | 保険証券の表面 | 販売店や代理店の名前と取り違えやすい |
| 商品名 | 保険証券の表面 | 通称ではなく、証券に書かれた正式な商品名を書く |
| 補償金額 | 保険証券の補償内容欄 | 対人と対物で金額が違うことがある。両方を確認する |
未加入の場合は空欄にするのではなく、参考として賠償能力の有無等の情報を記載することとされています。総重量25kg以上の場合とレベル3.5飛行の場合は、十分な補償が可能となる第三者賠償責任保険の内容を記載することが明記されています。
商品名まで求められるのは、同じ保険会社でも商品によって補償の範囲が違うからです。申請に入る前に証券の画像を1枚撮っておくだけで、記載の迷いはかなり減ります。
6. 申請だけでなく、飛行計画の通報にも保険の欄がある
保険が出てくるのは申請のときだけではありません。教則3.1.2(2)2)a.が挙げる飛行計画の通報事項の最後、g.が「損害賠償のための保険契約の有無及びその内容」です。
ここは有無を答えるだけの欄に見えますが、通報は特定飛行の都度行うものです。特定飛行のたびに通報する項目に入っているということは、飛行のたびに「今この保険は有効か」を問われているのと同じです。航空局も、飛行許可・承認の取得後、飛行の際には必ず加入中の保険の付保状況や有効期間を確認するよう注意を促しています。
7. 加入前・更新前に確認する項目
ここから先は、どの商品を選ぶかではなく、どこを読むかの話です。以下はそのまま持ち出せる確認表として作りました。回答が出せない項目が残ったら、その時点で保険会社か代理店に聞くのが早道です。
| 確認する項目 | 確認の観点 |
|---|---|
| 契約の単位 | 機体を記名する契約か、操縦者や事業を単位にする契約か |
| 対象になる機体 | 買い足した機体が自動で対象になるか。借りた機体、他人の機体は対象か |
| 業務での使用 | 趣味の飛行のみが対象の契約になっていないか。報酬を得る飛行が対象か |
| 対人・対物の補償金額 | それぞれいくらか。想定する飛行場所の周囲にある物件の価値と釣り合うか |
| 免責金額 | 1事故あたりいくらの自己負担が生じるか |
| 対象になる飛行の方法 | 夜間、目視外、25kg以上、物件投下など、実施する飛行が除外されていないか |
| 第三者の範囲 | 補助者や依頼主、同行者が第三者に含まれるか、含まれないか |
| 機体保険の支払条件 | 機体を回収できなかった場合や、水没した場合の扱い |
| 積載物の扱い | 輸送物、カメラ、ジンバル、外付け機器が対象に含まれるか |
| 有効期間 | 満了日はいつか。自動更新か、手続きが必要か |
| 飛行させる者の範囲 | 契約者本人以外の操縦者が飛ばした場合も対象か |
この表は商品の優劣を比べるためのものではなく、自分の運用が契約の範囲からはみ出していないかを点検するためのものです。
8. よくある誤解の整理
| よく聞く理解 | 文書上の扱い |
|---|---|
| ドローンは保険加入が義務化された | 強制保険はない。ただし総重量25kg以上とレベル3.5飛行は、許可・承認の要件として加入が求められる |
| 機体保険に入れば賠償もまかなえる | 教則は機体保険と損害賠償責任保険を別の型として整理している。守る対象が違う |
| 補償金額は国が決めている | 金額の基準は示されていない。飛行の内容に応じて運航者が設定する |
| 25kgは機体本体の重さで判定する | 総重量で判定する。総重量は申請する飛行形態で確認する |
| 未加入なら申請書の保険欄は空欄でよい | 参考として賠償能力の有無等の情報を記載することとされている |
| 保険は機体1機ごとに入るもの | 契約の単位は商品によって違う。機体を特定せず、操縦者を単位にする設計もある |
| 一度入れば、あとは飛ばすだけ | 飛行計画の通報事項に保険契約の有無と内容が含まれる。飛行の都度、有効性が問われる |
9. 加入漏れが起きやすいのは、状況が変わった直後
保険そのものを忘れる人はほとんどいません。抜けるのは、条件が変わったのに契約を見直していない場面です。
- 機体を買い足した。前の機体だけが記名されている契約のまま飛ばしている
- 積載を増やして総重量が25kgを超えた。飛行形態が変わったのに申請内容が古いまま
- 趣味から業務に切り替えた。業務使用が対象外の契約が残っている
- 操縦を他のメンバーに任せるようになった。契約者本人以外が対象か確認していない
- 更新の案内を見落とした。証券はあるが有効期間が切れている
飛行日誌や点検記録と同じで、保険も「一度整えたら終わり」ではなく、運用が変わるたびに見直す対象です。飛行前点検の手順に、有効期間の確認を1行足しておくと取りこぼしが減ります。
まとめ
ドローンの保険は任意です。しかし、総重量25kg以上とレベル3.5飛行では、加入していないと許可・承認の要件を満たしません。そしてそれ以外の飛行でも、申請書と飛行計画の通報の両方に、保険を書く欄があります。
選ぶときに見るべきなのは、どの商品が人気かではなく、自分の運用が契約の範囲に収まっているかどうかです。契約の単位、業務使用、補償金額、免責、有効期間。この5つを証券で確認できれば、申請書の記載でつまずくことはほとんどありません。
そして、金額の妥当性だけは書類からは決まりません。どこで、何の上を、どれくらいの重さの機体で飛ばすのか。そこから逆算するしかない部分です。
保険の欄がある申請書そのものの書き方は、こちらにまとめています。DIPS2.0 飛行許可・承認申請ガイド
飛行前に有効期間を確認する習慣づくりは、点検の手順に組み込むのが確実です。ドローン飛行前点検チェックリスト完全版
看板やコーンなど、立入管理措置に使う装備の選び方はこちら。ドローンの現場装備リスト
機体を買ったあと、何をどの順で片づけるかの全体像はこちら。ドローン購入後ロードマップ
今回扱った保険の付保範囲拡大は、教則第5版の改正点のひとつです。20問で確認できます。教則第5版 改正点チェック20問(無料)
登録講習機関講師 フライトデスク 監修



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