教則第5版をやさしく読む17|4.5 機体以外の要素技術【全文+講師の解説】

教則第5版をやさしく読む17|4.5 機体以外の要素技術【全文+講師の解説】 ストック記事

今回は機体の「外側」を扱う回です。電波、地磁気、GNSS——ドローンを飛ばしているものなのに、どれも目に見えません。

目に見えないということは、日常点検で「見て確かめる」ことができないということでもあります。だからこの節は、知識で先回りして避けるための回だと私は思っています。教則が「偏角が生じるため」とだけ書いているところに国土地理院の実際の数字を当ててみたり、〔一等〕のフレネルゾーンの計算を最後まで手で解いてみたりします。二等の方も、答えの数字より「どの数字がどちらに効くのか」だけは持ち帰れるように書きました。

教則第5版 4.5 機体以外の要素技術(全文)

出典:国土交通省「無人航空機の飛行の安全に関する教則(第5版)」(令和8年7月7日公布・令和8年7月14日適用)。読みやすさのためレイアウトを再構成し、原本で混在している英数字の全角・半角を半角にそろえ、原本の一部の見出しで使われている異体字(康熙部首)を常用の字体に直しています。本記事は国土交通省の公式なものではありません。

電波

  • (1) 電波の特性
  • 1) 直進、反射、屈折、回折、干渉、減衰

電波の性質の種類と特徴は以下のとおりである。電波には障害物等の後ろに回り込む回折という性質、異なる媒質にぶつかると透過、反射あるいは屈折する性質、周波数の近い電波が重なると電波干渉が発生しお互いを減衰させる性質などがある。2.4GHz の電波は回折しにくく直進性が高いため障害物の影響を受けやすくなる。

性質の種類 性質の特徴
直進 電波は、進行方向に障害物が無い場合は直進する。
反射、屈折 電波は、2つの異なる媒質間を進行するとき、反射や屈折が起こる。常に反射の法則(入射角と反射角の大きさは等しい)が成り立つ。
回折 電波は、周波数が低い(波長が長い)ほど、より障害物を回り込むことができるようになる。
干渉 電波は、2 つ以上の波が重なると、強め合ったり、弱め合ったりする。
減衰 電波は、進行距離の2乗に反比例する形で電力密度が減少する(進行距離が 2 倍になると電波の電力密度は 1/4 になる)。
周波数により特性は異なるものの、電波は水中では吸収されて大きく減衰される。
  • 2) マルチパス

送信アンテナから放射された電波が山や建物などによる反射、屈折等により複数の経路を通って伝搬される現象をマルチパスという。反射屈折した電波は、到達するまでにわずかな遅れを生じ、一時的に操縦不能になる要因の一つとなっている。マルチパスによって電波が弱くなり一時的に操縦不能になった場合は送信機をできるだけ高い位置に持ちアンテナの向きを変えて操縦の復帰を試みる。

  • 3) フレネルゾーン

フレネルゾーンとは無線通信などで、電力損失をすることなく電波が到達するために必要とする領域のことをいう。無線通信での「見通しが良い」という表現は、フレネルゾーンがしっかり確保されている状態であることを意味する。

フレネルゾーンは、送信と受信のアンテナ間の最短距離を中心とした楕円体の空間で、この空間は無限に広がるが、電波伝搬で重要なのは第 1 フレネルゾーンと呼ばれる部分である。このフレネルゾーン内に壁や建物などの障害物があると、受信電界強度が確保されず通信エラーが起こり、障害物がない状態に比べて通信距離が短くなる。

このフレネルゾーンの半径は周波数が高く(波長が短く)又はお互いの距離が短くなればなるほど小さくなる(2.4 GHz 帯、5.7 GHz 帯の場合、2 地点が 100m 離れたケースでは 2m 以下)。地面も障害物となるため、フレネルゾーンの半径を考慮してアンテナの高さを十分に確保する必要がある。

  • (2) 無人航空機の運航において使用されている電波の周波数帯・用途

無人航空機の運航において使用されている主な電波の周波数帯は、2.4GHz 帯、5.7GHz 帯、920MHz 帯、73MHz 帯、169MHz 帯である。169MHz 帯は主に 2.4GHz 帯及び 5.7GHz 帯の無人移動体画像伝送システムの無線局のバックアップ回線として使用される。電波の周波数帯や出力、使用するアンテナの特性、変調方式、伝送速度などによって通信可能な距離は変動する。

  • (3) 無人航空機以外も含めた日本の電波の利用状況〔一等〕

電波の特性として、波長が長いほど直進性が弱く情報伝達容量が小さくなるが減衰はしにくい。逆に波長が短いほど直進性が強く情報伝達容量が大きくなるが減衰はしやすい。

無人航空機の制御用通信に多く使用される極超短波は10cm~1mの波長(周波数 300MHz~3GHz)で、超短波(波長 1~10m、周波数 30~300MHz)に比べて直進性が更に強くなるが、多少の山や建物の陰には回り込んで伝わることができる。伝送できる情報量が大きく、小型のアンテナと送受信設備で通信できることから、携帯電話や業務用無線、アマチュア無線、無人航空機など多種多様な移動通信システムを中心に、地上デジタルTV、空港監視レーダー、電子タグ、電子レンジ等幅広く利用される。

マイクロ波は1~10cmの波長(周波数 3~30GHz)で、直進性が強い性質を持つため特定の方向に向けて発射するのに適している。伝送できる情報量が非常に大きいことから、衛星通信、衛星放送や無人航空機の画像伝送、無線LANに利用される。レーダーもマイクロ波の直進性を活用したシステムで、気象レーダーや船舶用レーダー等に利用される。

  • (4) 電波の送信、受信に関わる基本的な技術

送信機のアンテナから発射される電波の強さは、方向により異なる(無指向性のアンテナの場合は、アンテナの周囲に対して同様に発射される)。アンテナの角度は調整できるので、操縦時の送信機の持ち方や無人航空機の位置を考慮して最適なアンテナ角度を設定する必要がある。

  • (5) 電波の特性に伴って発生する運航上のトラブルの調査・分析〔一等〕

外来電波や他の設備・機器からのノイズにより無線設備の通信環境が不安定になることがある。電波環境の調査として、スペクトラムアナライザを用いて、使用している周波数と同じ電波が現地エリアで使用されている状況や、他の設備・機器からノイズが発生していないかを確認する方法がある。様々な無線局が散在する市街地での飛行のためには、電波環境の調査は非常に重要である。

  • (6) 電波と通信に関わる基本的な計算〔一等〕

カテゴリーⅢ飛行を行うにあたっては、電波と通信に関わる基本的な計算(周波数帯や送受信間距離を踏まえ必要となるアンテナの高さ等)について理解しておく必要がある。

  • 1) フレネルゾーン半径と必要なアンテナの高さ

フレネルゾーンの半径:R(m)、送受信アンテナ間距離:D(m)、使用周波数f(Hz)、波長:λ(m) とすると、これらの間には以下の関係がある。

𝑅 = √( 𝜆 × (𝐷/2)2 × 1/𝐷 )

上記式を用いた、送受信アンテナ間距離:100m 、使用周波数:2.4GHz のときのフレネルゾーンの半径の具体的な導出方法を以下に示す。

上記の前提条件より、

  • ⚫ 送受信アンテナ間距離:D=100m
  • ⚫ 使用周波数:f=2.4×109Hz
  • ⚫ 波長:λ=(3×108)÷(2.4×109)=0.125 m(光の速度を 3×108m/s とした場合)

と求めることができる。以上より、フレネルゾーンの半径 R は、

𝑅 = √( 𝜆 × (𝐷/2)2 × 1/𝐷 ) = √( 𝜆 × 𝐷/4 ) = √( 0.125 × 100/4 ) ≒ 1.77 𝑚

よって理想的なアンテナの高さは 1.77m以上となる。なお、実際にはフレネルゾーン半径の 60%以上のアンテナ高さが確保できていれば、フレネルゾーンに障害物がない場合と同等の通信品質を確保できるといわれている。この条件にて必要なアンテナの高さを計算すると、1.77×0.6≒1.1m以上となる。

磁気方位

  • (1) 地磁気センサの役割

地磁気センサにより、地球の磁気を検出することで機体の向き(方位)や姿勢を知ることができる。地磁気センサは正常な方位を計測しない場合があるが、それは磁力線が示す北(磁北)と地図の北に偏角が生じるためである。

  • (2) 飛行環境において磁気に注意すべき構造物や環境

地磁気の検出には、鉄や電流が影響を与える。一般的に影響を与えるものは、高圧線や変電所、電波塔、鉄材を多く使用された建物、新幹線や電車の鉄道、自動車、鉄板など鉄材が多く埋め込まれた場所などがあげられる。機体の姿勢や進行方向に影響を与える場合がある。

  • (3) 無人航空機の磁気キャリブレーション

無人航空機の磁気キャリブレーションとは、飛行前にその場所の地磁気を検出して方位を取得し、GNSS 機能やメインコントローラーに認識させることである。磁気キャリブレーションが正しく行われていないと、機体が操縦者の意図しない方向へ飛行する可能性がある。飛行させる場所により、地磁気の方向は異なるので、磁気キャリブレーションを行うことが重要である。

GNSS

  • (1) GNSS

GPS(Global Positioning System)は、アメリカ国防総省が、航空機等の航法支援用として開発したシステムである。GPS に加え、ロシアの GLONASS、欧州の Galileo、日本の準天頂衛星 QZSS等を総称して GNSS(Global Navigation Satellite System/全球測位衛星システム)と言う。

GNSS は最低 4 個以上の人工衛星からの信号を同時に受信することでその位置を計算することができる。機体に取り付けられた受信機により最低4基以上の人工衛星からの距離を同時に知ることにより、機体の位置を特定している。なお、安定飛行のためには、より多くの人工衛星から信号を受信することが望ましい。

  • (2) GNSS と RTK の精度

GPS 測位での受信機 1 台の単独測位の精度は数十 m の精度である。測位方式として固定局と移動局の2つの受信機を使用する RTK(Real Time Kinematic)や DGPS(Differential GlobalPositioning System)などの技術が確立され、これらの測位方式は数 cm~数 m レベルの精度の高い測位が可能である。

  • (3) GNSS を使用した飛行における注意事項

自動操縦では手動操作よりも高精度な GNSS 測位が必要である。自動操縦のためにあらかじめ地図上で設定した Way Point は GNSS の測位精度の影響を受けるため、精度が悪化した場合は実際の飛行経路の誤差が大きくなる。

GNSS の測位精度に影響を及ぼすものとしては、GNSS 衛星の時計の精度、捕捉している GNSS衛星の数、障害物などによるマルチパス、受信環境のノイズなどが挙げられる。受信機は、周囲の地形や障害物の状況を考慮して設置する必要がある。一般的に位置精度は、水平方向に比べ高度方向の誤差が大きくなる。

ここからは私の解説です

この節がいちばん言いたいこと

ひとことで言うと、「ドローンは、目に見えない3つのものに支えられて飛んでいる」ということです。

電波(指令と映像を運ぶ)、地磁気(どちらを向いているかを教える)、衛星からの電波(どこにいるかを教える)。前回までの「機体の中の部品」は、外して、見て、触って確かめられました。この回に出てくるものは、どれも手で触れません。

だから教則は、この節で「壊れたときの直し方」ではなく「乱れる条件」を並べています。鉄材の多い場所、ビルに囲まれた場所、送信機と機体の間に建物がある場所。飛ばす場所を選ぶ段階で決まってしまうことばかりです。

教則はこの節を3つに分けています

原本の見出しを見ると、4.5 は4.5.1 電波/4.5.2 磁気方位/4.5.3 GNSSの3つに分かれています。分量は電波がいちばん多く、しかも〔一等〕が3か所ともここに集まっています。

項目 だれが読むところか
4.5.1(1) 電波の特性/(2) 使用されている周波数帯・用途/(4) 送信、受信に関わる基本的な技術 一等・二等とも
4.5.1(3) 無人航空機以外も含めた日本の電波の利用状況〔一等〕 一等のみ
4.5.1(5) 電波の特性に伴って発生する運航上のトラブルの調査・分析〔一等〕 一等のみ
4.5.1(6) 電波と通信に関わる基本的な計算〔一等〕 一等のみ
4.5.2 磁気方位(1)〜(3)/4.5.3 GNSS(1)〜(3) 一等・二等とも

つまり二等の方は、磁気方位とGNSSは全部が範囲です。電波は前半だけ。ここをはっきりさせておくと、読む力の配分がしやすくなります。

電波の6つの性質は「届く理由」と「届かない理由」で束ねる

原本の表には直進・反射・屈折・回折・干渉・減衰の6つが並んでいます。平坦に見えますが、操縦する立場から見ると役割が違います。

性質 操縦者にとっての意味
直進 障害物が無ければまっすぐ届く。これが基本形
回折 障害物の後ろに回り込んでくれる。周波数が低い(波長が長い)ほどよく回り込む
反射・屈折 回り道して届く。ただし遅れて届くのでマルチパスの原因にもなる
干渉 近い周波数の波が重なると、強め合ったり弱め合ったりする。他人の電波で弱くなる
減衰 距離とともに必ず弱くなる。止められない

ここでいちばん覚えておきたいのは回折の向きです。

電波は、周波数が低い(波長が長い)ほど、より障害物を回り込むことができるようになる。

低い方が回り込む。高い方が回り込まない。そして教則は、そのすぐあとにこう書いています。

2.4GHz の電波は回折しにくく直進性が高いため障害物の影響を受けやすくなる。

2.4GHz 帯は、教則が3.2.2の表で用途を「操縦用、画像伝送用、データ伝送用」としている帯です(この連載の12回目で読んだところです)。免許のいらない小電力の無線局として、身の回りのWi-FiやBluetoothと同じ帯を使っています。いちばん身近な電波が、いちばん障害物に弱い。木立の裏、建物の陰、堤防の向こう——「機体は見えているのに映像が乱れる」という現場のあの状態は、この一文で説明がつきます。

距離が2倍で1/4——「戻れる距離」の根拠になる数字

減衰の行は、数字が入っている数少ない行なので押さえておきたいところです。

電波は、進行距離の2乗に反比例する形で電力密度が減少する(進行距離が 2 倍になると電波の電力密度は 1/4 になる)。

距離が2倍で1/4、3倍なら1/9。倍々ではなく、二乗で効いてきます。「さっきまで平気だったのに、少し伸ばしたら急に不安定になった」という感覚は、気のせいではありません。

もう1つ、地味ですが実務に効くのがこの一文です。

周波数により特性は異なるものの、電波は水中では吸収されて大きく減衰される。

水は電波を吸います。水面すれすれの飛行や、河川・海上での運用を考えている方は、頭の隅に置いておいてください。

マルチパスの処方箋は、教則に1つだけ書いてあります

マルチパスは、反射・屈折で同じ電波が複数の道を通って届く現象です。回り道した分だけ遅れて届くので、受信側で波が食い違います。

反射屈折した電波は、到達するまでにわずかな遅れを生じ、一時的に操縦不能になる要因の一つとなっている。

「一時的に操縦不能」——教則がこの言葉を使っているのは、ここを含めて多くありません。そして、その対処法まで具体的に書いてあります。

マルチパスによって電波が弱くなり一時的に操縦不能になった場合は送信機をできるだけ高い位置に持ちアンテナの向きを変えて操縦の復帰を試みる。

高く持つ。向きを変える。この2つだけです。慌てて機体を追いかけて走ったり、送信機を振り回したりするより、まず腕を上げる。覚えやすい形で書いてくれているので、そのまま覚えてしまってよいと思います。

フレネルゾーン——「見えている」と「通じている」は別です

ここが4.5.1のいちばんの山だと思います。

無線の世界で「見通しが良い」と言うとき、それは「目で見えている」という意味ではありません。教則はこう定義しています。

無線通信での「見通しが良い」という表現は、フレネルゾーンがしっかり確保されている状態であることを意味する。

フレネルゾーンは、送信アンテナと受信アンテナを結ぶ直線を軸にした細長い楕円体(ラグビーボール型)の空間です。電波はこの直線の上だけを通っているのではなく、その周りの太さのある空間を使って届いています。だから、直線は見えていても、その周りに壁や建物がかかっていると通信品質は落ちます。

そして、忘れやすいのがこの一文です。

地面も障害物となるため、フレネルゾーンの半径を考慮してアンテナの高さを十分に確保する必要がある。

地面も障害物です。送信機を地面に置いたまま、あるいは腰より下に構えたままだと、楕円体の下半分が地面に埋まってしまいます。「送信機は高く構える」という指導には、マルチパスの話とフレネルゾーンの話の両方の裏づけがある、ということになります。

〔一等〕の計算を、最後まで手で解いてみます

ここからは一等の範囲です。ただし二等の方も、答えより「数字の効き方」だけは見ておく価値があるので、途中まで一緒に読んでみてください。

教則が示しているのは、この式です。

𝑅 = √( 𝜆 × (𝐷/2)2 × 1/𝐷 )

R はフレネルゾーンの半径(m)、D は送受信アンテナ間の距離(m)、λ は波長(m)です。まず波長を出すところから始まります。

手順 計算
① 波長 λ を出す λ = 光の速度 ÷ 周波数 = (3×108) ÷ (2.4×109) = 0.125 m
② 式を整理する λ × (D/2)2 × (1/D) = λ × D/4(教則の途中式もこうなっています)
③ 数字を入れる √(0.125 × 100/4) = √3.125 ≒ 1.77 m
④ 実務上の値にする 半径の60%あれば同等の品質 → 1.77 × 0.6 ≒ 1.1 m 以上

光の速度を 3×108 m/s として計算する、というのも教則が明示しています。ここは自分で仮定しなくてよいところです。

さて、二等の方に持ち帰っていただきたいのは④の数字です。100m 先に飛ばすなら、アンテナは地面から1m以上は上げておきたい。ちょうど、送信機を胸の高さで構えたくらいです。逆に言えば、しゃがんで操縦するのは電波にとって不利だということでもあります。

数字の効き方も見ておきます。教則はこう書いています。

このフレネルゾーンの半径は周波数が高く(波長が短く)又はお互いの距離が短くなればなるほど小さくなる。

条件が変わると フレネルゾーンの半径は
周波数が高い(5.7GHz など) 細くなる(=障害物にかかりにくい)
距離が短い 細くなる
距離が長い 太くなる(=アンテナをもっと高くしたい)

ここで回折の話と逆になるので注意してください。周波数が高い電波は、フレネルゾーンは細いけれど障害物を回り込めない。細いから当たりにくいのに、当たったら回り込めない。2つの性質を混ぜないことが、この節を読むうえでの分かれ目だと思います。

「偏角」を、実際の数字で見てみます

ここから4.5.2 磁気方位です。教則は地磁気センサについてこう書いています。

地磁気センサは正常な方位を計測しない場合があるが、それは磁力線が示す北(磁北)と地図の北に偏角が生じるためである。

この「偏角」という言葉だけで終わっているので、どのくらいずれるのかが分かりません。国土地理院が都道府県庁所在地ごとの偏角を公表しているので、当ててみます(磁気図2020.0年値)。

場所 偏角(西向き)
札幌 9.7度
東京 7.6度
大阪 7.6度
福岡 7.7度
那覇 5.5度
全国平均 7.8度
日本で最大(北海道中頓別町の上頓部) 約11.2度
日本で最小(南鳥島) 約0.2度

方位磁石の北は、日本では真北より西を向いています。しかも札幌と那覇で4度以上ちがう。同じ日本の中で、これだけ差があります。

さらに、この値は時間とともに動いています。国土地理院によると、全国平均で過去5年間に西向きへ約0.3度、過去50年間で約1.4度増えました。地図の北は動かないのに、磁石の北は動く。教則が「偏角が生じるため」と一行で済ませているのは、こういう中身です。

だから、キャリブレーションは「場所ごと」なのです

上の表を見たあとだと、教則のこの一文がすっと入ると思います。

飛行させる場所により、地磁気の方向は異なるので、磁気キャリブレーションを行うことが重要である。

そして、教則の定義を読み直してみてください。

無人航空機の磁気キャリブレーションとは、飛行前にその場所の地磁気を検出して方位を取得し、GNSS 機能やメインコントローラーに認識させることである。

ポイントは「その場所の」という言葉です。キャリブレーションは機体を直す作業ではなく、いま立っている場所の磁気を機体に教える作業です。機体は変わっていなくても、場所が変わったら教え直す。そう理解しておくと、「先週やったからいいだろう」とはならないはずです。

やらなかったときに何が起きるかも、教則は書いています。

磁気キャリブレーションが正しく行われていないと、機体が操縦者の意図しない方向へ飛行する可能性がある。

磁気で避ける場所は、別の理由でも避ける場所です

教則が挙げる、地磁気に影響を与えるものを並べてみます。

高圧線や変電所、電波塔、鉄材を多く使用された建物、新幹線や電車の鉄道、自動車、鉄板など鉄材が多く埋め込まれた場所

この並びに見覚えがある方もいると思います。航空局の標準マニュアル②(場所を特定しない申請に適用されるもの・令和7年12月26日版)の3-1には、こう書かれています。

(11)高圧線、変電所、電波塔、無線施設などの施設上空及び付近では飛行させない。

しかも、この条文の但し書きには「突風、電波障害など不測の事態を考慮して」という言葉が入っています。教則は「磁気が狂うから」、マニュアルは「電波障害などが起きるから」。理由は違うのに、避ける場所は同じなのです。

覚え方としては、「鉄と電気の集まっているところは、磁石も電波も信用できない」で1つにまとめてしまってよいと思います。

GNSS——なぜ「4個以上」なのか

ここから4.5.3です。教則は数字だけを書いています。

GNSS は最低 4 個以上の人工衛星からの信号を同時に受信することでその位置を計算することができる。

「なぜ4個なのか」は教則に書かれていないので、補っておきます。求めたいのは緯度・経度・高度の3つですが、衛星までの距離は電波が届くのにかかった時間から計算しています。ところが受信機側の時計は衛星の原子時計ほど正確ではないので、その時計のずれも同時に解かなければなりません。

知りたいものが4つ(緯度・経度・高度・時計のずれ)だから、式も4本要る。だから衛星が4個。——この理屈で覚えておくと、数字が抜けにくくなります。

そして教則は、こう付け加えています。

安定飛行のためには、より多くの人工衛星から信号を受信することが望ましい。

4個は最低ラインであって、目標ではありません。離陸前の機体が表示する衛星数を、「4以上あるか」ではなく「いつもより少なくないか」で見るようにすると、その日の環境の異常に気づきやすくなります。

RTKの「固定局」は、実際にどこにあるのか

精度の話も、数字を並べると差がはっきりします。

測位方式 精度
GPS 受信機1台の単独測位 数十m
RTK(固定局と移動局の2つの受信機)/DGPS 数cm〜数m

桁が3つ違います。「単独測位では数十mずれることがある」——この数字は、Way Point を設定して自動飛行させるときの感覚に直結します。教則も、そこを名指ししています。

自動操縦のためにあらかじめ地図上で設定した Way Point は GNSS の測位精度の影響を受けるため、精度が悪化した場合は実際の飛行経路の誤差が大きくなる。

ところで、RTK の「固定局」とは何でしょうか。自分で1台立てる方法もありますが、日本には国土地理院の電子基準点があります。全国約1,300か所に設置され、1秒間隔のデータが配信機関を通じて民間の位置情報サービス事業者に提供され、ネットワーク型RTK-GNSSによる高精度なリアルタイム測位に使われています。

測量用のドローンで「RTKに対応」と書かれている機体は、多くがこの仕組みを使っています。教則の一行の裏には、全国1,300か所の観測網があるということです。

この節でいちばん現場に効く一文

最後の一文が、私はいちばん大事だと思っています。

一般的に位置精度は、水平方向に比べ高度方向の誤差が大きくなる。

高さの方が、誤差が大きい。水平方向は衛星を四方から見込めるので条件が良いのですが、高度方向は信号が上空側からしか来ないぶん、どうしても不利になります。

実務に落とすと、こうなります。機体の表示する高度は、水平位置よりも幅を持って見ておく。高度に制限のある場所では上限ぎりぎりを狙わない、機体の高さを目で確かめられる位置に立つ——そうした備えが、この一行の意味するところだと思います。

ちなみに、測位精度に影響するものとして教則が挙げているのは4つです。GNSS衛星の時計の精度、捕捉している衛星の数、障害物などによるマルチパス、受信環境のノイズ。——うち2つ(衛星数とマルチパス)は場所を選べば避けられます。ビルの谷間や橋の下ではなく、開けた場所から上げる。それだけで精度の条件は変わります。

この回の数字まとめ

  • この節の〔一等〕は3か所(日本の電波の利用状況/トラブルの調査・分析/基本的な計算)。磁気方位とGNSSは全部が二等の範囲
  • 回折=周波数が低い(波長が長い)ほど回り込む。2.4GHzは回折しにくく直進性が高い
  • 減衰=距離の2乗に反比例。距離が2倍で電力密度は1/4。水中では大きく減衰
  • マルチパスで操縦不能になったら=送信機を高い位置に持ち、アンテナの向きを変える
  • 使用されている周波数帯=2.4GHz帯・5.7GHz帯・920MHz帯・73MHz帯・169MHz帯。169MHz帯はバックアップ回線
  • フレネルゾーンの半径は周波数が高いほど、距離が短いほど小さい。2.4GHz帯・5.7GHz帯で100m離れて2m以下
  • 〔一等〕計算=波長 0.125m(2.4GHz)→ 半径 約1.77m → 60%で約1.1m以上
  • 極超短波=10cm〜1m(300MHz〜3GHz)/超短波=1〜10m(30〜300MHz)/マイクロ波=1〜10cm(3〜30GHz)
  • 偏角(国土地理院・2020.0年値)=全国平均西へ7.8度、那覇5.5度、札幌9.7度、最大約11.2度、最小約0.2度
  • GNSS=最低4個以上の衛星。単独測位数十m/RTK・DGPS数cm〜数m
  • 測位精度に影響する4つ=衛星の時計の精度・捕捉衛星数・マルチパス・受信環境のノイズ
  • 位置精度は水平方向に比べ高度方向の誤差が大きい

おわりに

この回のものは、全部目に見えません。だからこそ、「乱れる場所の顔つき」を覚えてしまうのがいちばん早いと私は思っています。

鉄骨の倉庫、鉄板を敷いた資材置き場、高圧線の鉄塔、線路際、駐車場のど真ん中。磁石が狂いそうな場所です。そしてビルの谷間、橋の下、深い谷。衛星が見えない場所です。さらに、送信機と機体のあいだに建物や木立が入る位置取り。電波が届きにくい場所です。

この3種類の「顔つき」が浮かぶようになれば、離陸地点を決める段階で、この節の内容の大半を実行できていることになります。試験のためだけでなく、そのまま安全のための知識になる回でした。

次回は「4.6 機体の整備・点検・保管・交換・廃棄」。買ってから捨てるまでの、機体との付き合い方の話に入ります。

出典

  • 国土交通省「無人航空機の飛行の安全に関する教則(第5版)」令和8年7月7日公布・令和8年7月14日適用
  • 国土地理院「日本各地の偏角値(都道府県庁所在地の偏角値一覧)」(磁気図2020.0年値)
  • 国土地理院「GEONET(GNSS連続観測システム)とは」「電子基準点リアルタイムデータの利用」(電子基準点 全国約1,300か所、ネットワーク型RTK-GNSS)
  • 国土交通省航空局「無人航空機 飛行マニュアル(場所を特定しない申請について適用)」(標準マニュアル②)令和7年12月26日版 3-1(11)

本記事の内容は2026年8月時点のものです。偏角の値は国土地理院が公表している2020.0年値で、時間とともに変化します。フレネルゾーンの計算は教則が示す式と条件をそのままたどったもので、実際の通信環境は機体・送信機・地形によって変わります。

この章を、問題で確認する

ここは学科試験では「無人航空機のシステム」の分野にあたります。読んだ直後に解くと、取り違えていた箇所がその場で分かります。
この節は〔一等〕の項目が多く、フレネルゾーンの計算式が出てきます。一等の演習261問には計算問題も収録しています。

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