ドローンのファームウェア更新|現場前にやること・更新直後に確認すること

現場の実務

ファームウェアの更新は、地味なのに現場の成否を分ける作業です。

更新しないままだと既知の不具合を抱えたまま飛ばすことになる。かといって、現場の朝に更新をかけると、設定が初期化されていたり、更新が途中で止まって機体が立ち上がらなくなったりします。

講習では、この作業を「アプリが出してきたら押すもの」として扱っている方が少なくありません。実際には、いつ・どこで・何を確認してから行うかを決めておくべき整備作業です。

最初に一番大事なことファームウェア更新は、現場の当日ではなく、現場の前日までに済ませる。更新は設定の初期化やバージョンの不一致を引き起こすことがあり、更新後には動作確認の時間が要ります。当日の朝に更新をかけて、そのまま飛ばすのが最も危ない使い方です。

ファームウェアとは、どこに入っている何なのか

ファームウェアは、機器の中で動いている制御用のプログラムです。ドローンの場合、更新の対象は機体だけではありません。

教則では、無人航空機の構成要素としてフライトコントローラーやモーター、各種センサ、通信系統、電源系統が説明されています。ファームウェアは、これらを束ねて動かす側の中身にあたります。

更新の対象 何が変わるか
機体本体 飛行制御、センサの処理、障害物検知、帰還動作、機体側の通信
送信機(操縦装置) 通信方式、画面表示、スティックやスイッチの扱い、機体との適合
バッテリー 残量の計算、充放電の制御、セルの管理。機種によっては個別に更新される
外付けリモートID機器 発信内容の生成、暗号鍵の扱い、書き込みモードの動作
操縦アプリ 表示と操作。機体側の更新と対応関係にあることが多い

押さえておきたいのは、更新の単位が1つではないという点です。機体だけ新しくして送信機を放置すると、バージョンが噛み合わず、接続できない、一部の機能が使えないという状態になり得ます。

法令はファームウェア更新をどう扱っているか

ここは正確に書きます。無人航空機の飛行の安全に関する教則 第5版の全文を検索しましたが、「ファームウェア」「ソフトウェア」「アップデート」「バージョン」という語は1件もありません。国が、ファームウェア更新それ自体を名指しで義務づけている記述は見当たりませんでした。

ただし、これを「関係ない」と読むのは誤りです。教則には、次の義務が書かれています。

登録を受けた無人航空機の使用者は、整備及び必要に応じて改造をし、当該無人航空機が安全上の問題から登録を受けることができない無人航空機とならないように維持しなければならない。(教則第5版 3.1.2 使用者の整備及び改造の義務)

さらに、機体認証を受けた機体については、無人航空機整備手順書(機体メーカーの取扱説明書等)に従って整備をすることが義務づけられています。整備・点検の項目についても、教則は「各機体メーカーが設定する整備内容を熟知し、必要なタイミングで修理等の整備を行う必要がある」(4.6)とし、点検プロセスは「機体メーカーの指示する内容に従って実施すること」(5.1)としています。

航空局標準飛行マニュアルも同じ立て付けで、「無人航空機の飛行の安全を確保するため、製造事業者が定める取扱説明書に従い、定期的に機体の点検・整備を行うとともに、点検・整備記録を作成する」と定めています。

つまり、ファームウェアという語は出てこないが、メーカーが指示する整備に従う義務は明記されているということです。メーカーが更新を求めている以上、それを無視して飛ばし続ける運用は、この義務の側から説明が苦しくなります。

補足ここで挙げた根拠は、いずれも「メーカーの指示に従う」という形の義務です。更新を何日以内にやれ、といった期限を国が定めているわけではありません。判断の中身はメーカーの案内と自分の運航計画に委ねられています。

リモートIDだけは、少し話が違う

リモートIDについては、国の文書にファームウェアが明記されています。

「リモートID機器等及びアプリケーションが備えるべき要件」の別紙には、国土交通省から通知された公開鍵及びアプリ認証コード等を変更する必要が生じた場合には、ファームウェアの更新等により変更に対応できるようにすること、という製造者向けの要件が置かれています。

また技術規格書には、登録制度の施行前などの理由でリモートID機能を持たない機体が、外付け機器の取り付けではなくファームウェア・アップデート等により当該機能を備える場合、製造番号は維持すること、という規定があります。ファームウェア更新でリモートID機能が後から追加されることを、制度側が想定しているわけです。

飛行前点検の項目にも「リモートID機能が正常に作動しているか」が入っています。更新の前後でここが動かなくなっていないかは、必ず自分の目で確かめる対象です。

いつ更新するか。現場の朝は避ける

更新のタイミングは、次のように考えると外しにくくなります。

状況 判断
現場の3日前〜前日 更新に適する。更新後に動作確認と設定の見直しをする時間が取れる
現場の当日朝 原則やらない。失敗したときに代替手段がなく、確認の時間も取れない
連続する案件の合間 やらない。次の現場まで動作確認ができないなら、案件が切れるまで待つ
メーカーが安全上の告知を出した 内容を読んで判断する。飛行に影響する不具合の修正なら、飛ばす前に対応する
複数機を運用している 1機ずつ更新し、確認が済んでから次に進む。全機を同時に更新しない

講習では「メーカーからお知らせが来たので、現場に向かう車の中で更新しました」という話を聞くことがあります。通信環境が不安定な場所でダウンロードが途切れると、そこで止まります。更新は、電源と通信が安定した場所で、時間に余裕をもって行うものです。

更新が失敗する条件は、あらかじめ公表されている

更新の失敗は、多くが決まった原因で起きます。メーカーが公表している注意事項を、そのまま守るのが早道です。

DJIは、機体ファームウェア更新について、更新前に機体・送信機のバッテリー残量が50パーセントを超えていることを確認するよう案内しています。残量が50パーセントを下回っていると、更新中に電源が落ちることがあるためです。あわせて、更新中に機体の電源を切らないこと、アプリを終了しないこと、更新が完了するまで操作しないことが挙げられています。

注意この50パーセントという数値はDJIが自社製品について公表しているものです。他社の機体には他社の基準があります。お使いの機体のメーカー案内を確認してください。教則にはこの種の数値の記載はありません。

更新に必要な条件を整理すると、次のようになります。

条件 具体的に確認すること
電源 機体・送信機の残量がメーカー指定を満たすか。可能なら給電しながら行う
通信 ダウンロードが完了するまで切れない回線か。現場のテザリングは避ける
場所 屋内など、風雨と直射日光を避けられ、機体を安定して置ける場所か
時間 更新から動作確認まで通しで確保できるか。途中で切り上げない
退避 設定値と飛行データを先に控えたか。更新で初期化される項目がある

あわせて、更新前に控えておくものがあります。更新すると機体側の設定が初期値に戻ることがあり、何が戻るかは機種によって違うためです。

  • フェールセーフの動作設定(信号が切れたときにどう振る舞うか)と、帰還高度
  • 送信機のスティックモード、スイッチの割り当て、各種の警告しきい値
  • 高度・距離の制限値、速度の上限
  • カメラの設定、記録形式
  • SDカード内の飛行データ。更新の前に取り出しておく

フェールセーフと帰還高度は、現場ごとに詰めている方ほど、初期値に戻ったことに気づきにくい項目です。更新後に必ず開き直して、自分の設定になっているかを見てください。

更新直後の確認項目(そのまま使える表)

更新は、完了メッセージが出た時点では終わっていません。次の確認までが1セットです。屋内または安全な場所で、機体を離陸させずにできる確認から順に並べています。

順 確認すること
1 機体・送信機・バッテリーそれぞれのバージョンを表示させ、控えた番号と一致するか
2 機体と送信機が正常に接続するか。ペアリングし直しが必要になる機種がある
3 フェールセーフの動作設定と帰還高度が、自分の設定になっているか
4 高度・距離の制限値、速度の上限が意図した値か
5 スティックモードとスイッチの割り当てが変わっていないか
6 リモートID機能が作動していることを示す表示が出るか
7 登録記号の表示が機体に残っているか(外装作業を伴った場合)
8 コンパスとIMUの状態表示に異常がないか。案内があれば較正を行う
9 カメラ・雲台の動作、記録の開始と停止
10 低い高度でホバリングさせ、姿勢の保持と異音の有無を確認する
11 点検整備記録に、実施日・内容・理由を記載する
講習での傾向1と3を飛ばす方が多い印象です。バージョンの確認を省くと、更新できたつもりで実は失敗していた場合に気づけません。フェールセーフの確認を省くと、通信が切れた瞬間に初めて設定が戻っていたと分かることになります。

確認の途中で挙動がおかしいと感じたら、その場で粘らずに中止します。切り分けは、バージョン表示の確認、設定の初期化の確認、センサ較正の要否の順。ここまでで直らなければ、バージョン・症状・発生条件を添えてメーカーのサポートに連絡します。飛行中に生じた不具合は、飛行記録の記事欄に内容と処置を書き、具体的な処置の内容は点検整備記録にも記載する、という流れが飛行日誌のガイドラインに示されています。

バージョンを揃える、という考え方

機体1機、送信機1台なら話は単純です。複数機・複数台を運用し始めると、バージョンの管理が課題になります。

飛行日誌のガイドラインは、1つの操縦装置で複数機を操縦する場合や、複数の操縦装置で複数機を操縦する場合について、いずれも機体ごとに飛行日誌を備えることとし、点検項目の1つとして操縦装置があるという考え方を示しています。バージョンの管理も、この機体と操縦装置の組み合わせの単位で考えるのが素直です。

場面 起きること
機体だけ更新した 送信機と適合せず接続できない、または一部機能が使えない
予備機だけ古いまま 本機と挙動が違い、切り替えたときに操作感が合わない
バッテリーごとにバージョンが違う 残量表示や警告のしきい値が揃わない
チームで機材を共有している 誰がどれを更新したか分からず、現場で初めて食い違いが出る

対策は単純で、機体・送信機・バッテリーのバージョンを一覧にして残すことです。飛行日誌とは別の機材台帳として持っておくと、更新の抜けがすぐ分かります。

更新の記録を、どこに残すか

ここも正確に書きます。飛行日誌の取扱要領にも、そのガイドラインにも、「ファームウェア更新を点検整備記録に記載しなければならない」という明示的な規定は見当たりませんでした。

そのうえで、点検整備記録に記載する内容として、要領は次を挙げています。

  • 装備品等の交換記録(交換された部品名、部位等)
  • 定期点検の実施記録
  • 空撮用カメラ、薬剤散布装置等の取付け・取卸し記録
  • その他点検整備等の記録

また、ガイドラインは「使用者は設計製造者等が指示する点検整備等の内容以外に、無人航空機の故障等の不具合に起因する故障探求、是正処置等に関する整備作業の実施状況についても記載しなければならない」としています。不具合の是正として行った更新であれば、この記載義務にあたると読むのが自然です。

私は、更新は「その他点検整備等の記録」として残すのが安全側だと考えています。実施年月日、内容、理由、実施者を書いておけば、後から不具合の原因を追うときに、いつのバージョンで何が起きたのかを辿れます。記録の様式には、取扱説明書のリビジョン番号を書く記載例も示されており、バージョンを控える発想は制度側にもあります。

私の判断が入っている箇所ここは法令の明文ではなく、私の運用上の判断です。記録すべきかどうか厳密な線引きが必要な場面では、飛行の許可・承認を受けた飛行マニュアルの内容とあわせて、国土交通省の窓口にご確認ください。

よくある誤解の整理

よくある理解 実際のところ
常に最新版にしておけば安全 更新自体は推奨されるが、直後は動作確認が済んでいない状態。確認を経てはじめて現場で使える
更新は機体だけやればよい 送信機・バッテリー・外付けリモートID機器・アプリもそれぞれ対象になり得る
更新すると設定は引き継がれる 機種により初期化される項目がある。フェールセーフと帰還高度は必ず確認する
教則にファームウェアの規定がある 教則第5版に「ファームウェア」の語はない。根拠はメーカー指示に従う整備義務の側にある
更新を怠っても法的には問題ない メーカーが指示する整備に従う義務は明記されている。安全上の告知を無視する運用は説明が苦しい
非公式のファームウェアで機能を解放できる メーカーの想定外の状態になる。無線設備の改変は電波法上の問題にもなり得るため、手を出さない
触れてはいけない領域出力制限や地域設定を書き換える非公式なファームウェアが出回ることがあります。無線設備を改造すると技術基準適合証明の効力に関わるため、総務省は改造した場合に技適マークを除去する必要があるとしています。正規の更新以外は行わないでください。
わからないと申告します正規のファームウェア更新によって、機体に搭載された無線設備の技適の扱いがどうなるかについて、私は明確な根拠を確認できませんでした。制度側でもソフトウェア更新の扱いは論点として整理が進んでいる段階です。この点は断定を避けます。

まとめ

ファームウェア更新は、押せば終わる作業ではなく、確認までを含めた整備作業です。

国はファームウェアという語で義務を書いていませんが、メーカーが指示する整備に従う義務、点検整備記録を残す義務は明記されています。リモートIDについては、国の要件にファームウェア更新が明記されています。

現場の前日までに、電源と通信が安定した場所で、設定を控えてから更新する。終わったらバージョンとフェールセーフを必ず確認し、記録に残す。この順を守るだけで、当日の朝に慌てる場面はほとんど無くなります。

ご注意本記事は、無人航空機の飛行の安全に関する教則 第5版(公布 令和8年7月7日/適用 令和8年7月14日)、無人航空機の飛行日誌の取扱要領(令和4年12月1日制定)及び同ガイドライン(令和5年3月31日制定)、リモートID機器等及びアプリケーションが備えるべき要件(令和4年11月28日改正)、航空局標準飛行マニュアル、並びにDJI公式サポートの記載に基づく解説です。製品の仕様・法令・各社のルールは変更されることがあります。実際の取り扱いは、お使いの機体のメーカー公式マニュアルと最新の法令をご確認ください。
あわせて読みたい

更新で初期化されやすいのがフェールセーフと帰還高度です。設定の考え方はドローン送信機の設定ガイドにまとめています。更新後の確認は飛行前点検と地続きなので、ドローン飛行前点検チェックリスト完全版もあわせてどうぞ。

無線設備の改変が関わる話はドローンと電波法で、リモートIDの書き込み手順はDIPS2.0 機体登録ガイドで扱っています。

教則第5版で何が変わったかは、教則第5版 改正点チェック20問(無料)で20問だけ解いて確かめられます。

登録講習機関講師 フライトデスク 監修

コメント

タイトルとURLをコピーしました