鳥獣害対策の現場で、ドローンはいま「見回りの人手」と「夜の目」を同時に補う道具として広がっています。結論から言えば、ドローンは獣を直接つかまえる道具ではなく、どこに・何頭いるかを可視化し、追い払い、被害を未然に抑えるための調査・監視ツールとして最も力を発揮します。
この記事では、鳥獣害対策にドローンを使う理由から、具体的な用途と機材、夜間のサーマル調査、実際の自治体実証、そして航空法・鳥獣保護管理法という2つの制度までを、一本のハブとして整理します。
数値や制度は刻々と変わり、調査の定義によっても幅があります。導入を検討するときは、必ず末尾の出典と、お住まいの自治体・都道府県の最新情報もあわせてご確認ください。
なぜいま鳥獣害対策にドローンなのか
まず、問題の大きさをつかみましょう。農林水産省によると、令和5年度の野生鳥獣による全国の農作物被害額は約164億円で、前年度から8.0億円増えています。
獣種別に見ると、最も大きいのがシカで約70億円(前年度比+4.5億円)、次いでイノシシが約36億円(同▲0.1億円)です。さらにクマによる被害も約7億円(同+3.4億円)と、増加が目立ちます。
被害は金額だけの問題ではありません。中山間地域では、農地の荒廃や離農、そして人身被害という深刻な影響が積み重なっています。とりわけクマは、2025年度の人身被害が全国で238人と過去最多を記録し、うち13人が亡くなりました。
一方で、対策を担う狩猟者は高齢化と担い手不足が続いています。広い里山を人の足だけで見回るのは限界があり、しかも獣の多くは夜間に活動します。
ここにドローンの出番があります。上空から広範囲を短時間で見渡し、夜でも熱で獣を捉え、人が近づけない斜面や藪の奥まで確認できる。人手を増やせない現場ほど、その価値は大きいのです。
ドローンでできる4つの用途
鳥獣害対策でのドローン活用は、大きく4つに整理できます。いずれも「捕獲」そのものではなく、その前後を支える役割です。
第一が生息調査・行動把握です。赤外線(サーマル)カメラで、どのエリアに何頭いるか、どんな時間帯にどう動くかを把握します。対策の土台になる情報収集です。
第二が被害エリアの可視化です。上空から農地や斜面を撮影し、食害や掘り返しの範囲、獣の入り込みやすい場所を地図のように押さえます。
第三が侵入経路(獣道)の特定です。どこから農地に入ってくるのかが分かれば、電気柵やわなを「効く場所」に集中して置けます。やみくもに囲うより費用対効果が高まります。
第四が追い払い(威嚇)です。スピーカーやライトを積んだ機体で、農地に居ついた群れを山側へ押し戻します。人が張り付かずに繰り返せるのが利点です。
この4つは独立しているようで、実際は一連の流れです。調査で状況をつかみ、被害地と経路を可視化し、必要に応じて追い払う。捕獲や防護柵といった従来の手段を、より的確に配置するための「目」としてドローンが働きます。農業分野での活用全般は農業ドローンの活用まとめもあわせてご覧ください。
夜間調査を支えるサーマル(赤外線)カメラ
鳥獣害対策でドローンが真価を発揮するのが、夜間の生息調査です。シカやイノシシは夜行性が強く、昼間の目視では実態が見えにくいためです。
ここで使うのが、対象の体温を熱として捉えるサーマル(赤外線)カメラです。可視光カメラが真っ暗で役に立たない夜でも、獣は周囲との温度差で白く(または黒く)浮かび上がります。
これにより、群れの頭数や移動ルート、休息場所といった「昼には分からない情報」が手に入ります。広い範囲を一度に見渡せるため、地上からのセンサーカメラを点で置くより、面で状況をつかめるのが強みです。
ただし万能ではありません。濃い藪や樹冠の下に隠れた個体は熱が遮られて写りにくく、気温が体温に近い夏場はコントラストが下がります。飛行高度や時間帯を工夫し、他の調査手法と組み合わせる前提で使うのが現実的です。
追い払いの実際 ―― 兵庫・丹波篠山市の実証から
「音や光で本当に追い払えるのか」という疑問には、自治体の実証が参考になります。兵庫県が丹波篠山市で行った実証(ひょうごTECHイノベーションプロジェクト)では、追い払いと夜間調査の両方が試されました。
追い払いのテストでは、日中にサルを対象として、光・猛獣の声・人の声・警戒音など、合わせて21パターンが検証されました。結果として、実際のサルの警戒音を使った2回目の実証では「明らかに前よりサルが逃げるのが早くなった」と確認されています。
一方で、地域の民謡(デカンショ節)などの音では効果がなく、「ドローンを脅威と認識させる、具体的かつ強烈なシグナルが必要」という教訓も得られました。ただ音を鳴らせばよいわけではない、という点が重要です。
夜間のイノシシ・シカ調査では、暗視カメラを使い、約10頭の群れが獣道を移動する様子を撮影できました。ライトの点灯・点滅、複数音声の出力、ぬいぐるみを吊り下げる機能なども組み合わせて試されています。
この実証が示すのは、追い払いには「慣れさせない工夫」が欠かせないということです。同じ刺激を続ければ獣は慣れます。音や光のパターンを変え、調査で得た行動データに基づいて仕掛けることで、効果が長持ちします。
必要な機材と選び方
次に、実際にそろえる機材を整理します。用途によって重視する点が変わります。
調査が主目的なら、最重要はカメラ性能です。夜間調査にはサーマル(赤外線)カメラが必須で、可視光カメラとの切り替えができる機体だと昼夜の両方に対応できます。広い里山を飛ぶなら、飛行時間とバッテリーの予備も効いてきます。
追い払いが主目的なら、スピーカーの音量と、複数の音源を切り替えられる仕組みが鍵です。ライトの明滅など、視覚的な威嚇を併用できると効果が上がります。
さらに、山間部では電波の届きにくさや突風への耐性も無視できません。GPSの捕捉が不安定な谷筋では、機体の安定性と操縦者の技量が安全を左右します。
費用面では、機体本体だけでなく、予備バッテリー・保険・そして操縦できる人材の育成まで含めて考える必要があります。自前で持つか、専門事業者に委託するかは、飛ばす頻度と現場数で判断するとよいでしょう。機体選びの考え方はDJIドローンのまとめも参考になります。
制度とルール① 航空法の扱い
ドローンを飛ばす以上、航空法のルールは避けて通れません。まず、100g以上の機体は国への機体登録が義務です。
そのうえで、いくつかの飛行は「特定飛行」として国土交通省の許可・承認が必要になります。鳥獣害対策で関わりやすいのは、夜間飛行と目視外飛行、そして人口集中地区(DID)上空や、人・物件から30m未満の飛行です。
とくにサーマルを使う夜間調査は、そのまま「夜間飛行」に該当します。事前に承認を得る、あるいは資格・機体認証を活かした手続きで飛ばすのが原則です。
一方で、緊急性の高いケースには特例があります。航空法第132条の92の「捜索・救助等のための特例」です。これは、国や地方公共団体、またはこれらから依頼を受けた者が、事故や災害に際して捜索・救助を行う場合に、通常の許可・承認手続きを省いて飛べる仕組みです。
近年の運用では、クマなどの探索や住民避難を目的とした活動など、人命・財産に危害が及ぶおそれのある獣害対策も、この特例の対象になり得るとされています。ただし対象は公的主体とその委託先に限られ、個人が自己判断で使えるものではない点に注意が必要です。ドローン全体の制度はドローン規制・法律のまとめで詳しく解説しています。
制度とルール② 鳥獣保護管理法と捕獲
もう一つ押さえるべきが、鳥獣を扱う側の法律、鳥獣保護管理法です。ここは「ドローンで捕獲できるのか」という誤解が生じやすいところなので、丁寧に整理します。
野生鳥獣を捕獲する行為は、大きく「狩猟」と「許可捕獲」に分かれます。狩猟は、狩猟免許と登録を毎年得たうえで、狩猟期間中に定められた方法で狩猟鳥獣(46種)を捕獲するものです。
これに対し有害鳥獣捕獲などの「許可捕獲」は、被害防止や個体数調整といった目的が法で限定され、環境大臣・都道府県知事・市町村長のいずれかの許可を得て行います。多くの自治体では、市町村長に権限の一部が移譲されています。
重要なのは、ドローンそのものが獣を捕獲・殺傷する道具ではないということです。実際の捕獲は、わなや銃といった従来の法定猟法が担います。ドローンの役割は、その前段の調査・見回りや、群れを追い払って被害を減らすところにあります。
つまり鳥獣害対策のドローンは、捕獲の許可制度と正面からぶつかるものではなく、捕獲や防除を「より効率的にする支援ツール」として位置づけるのが正確な理解です。
クマ対策の最前線とドローンの位置づけ
いま最も切迫しているのがクマ対策です。国の方針も大きく動きました。
環境省は2026年4月に「特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(クマ編)」を改定し、基本方針を「維持・増加」から「維持・減少」へと転換しました。市街地や農地を「排除エリア」と位置づけるゾーニング管理を導入し、そこに侵入する問題個体は原則として捕殺する、と明記しています。
制度面でも、2025年の法改正で創設された「緊急銃猟」が同年9月に施行されました。一定の条件を満たせば、市街地でも銃器による対処ができる仕組みです。
ただしガイドラインは「銃による対処に安易に頼るべきでない」とも強調しています。放任果樹の伐採や生ごみ管理といった、クマを寄せつけない予防こそが最重要とされています。
この文脈でドローンが担うのは、出没個体の探索や行動範囲の把握、そして住民避難の支援です。人が近づくと危険なクマの所在を上空から確認できれば、対処する側の安全も高まります。捕殺の判断や実行は人が担い、その判断材料と安全確保をドローンが下支えする、という役割分担です。
導入の進め方 ―― 自治体・農家・事業者
最後に、実際に始めるときの流れを整理します。立場によって現実的な入り口が違います。
自治体の場合は、鳥獣被害防止計画や地域の対策協議会の枠組みの中で、まず調査目的の実証から入るのが一般的です。国や県の補助事業を活用し、専門事業者と組んで効果を検証する形が取り組みやすいでしょう。
農家や集落の場合は、いきなり機体を買うより、地域ぐるみでの委託や共同利用から始めるのが現実的です。飛ばせる人材の確保と、航空法の手続きが最初のハードルになります。
ドローン事業者やパイロットにとっては、鳥獣害対策は今後伸びる分野です。サーマル運用の技術に加え、鳥獣保護管理法や自治体の制度を理解し、地域の協議会や猟友会と連携できることが強みになります。
いずれの立場でも共通する原則は、「ドローンは魔法の杖ではない」ということです。調査で得たデータを、電気柵・わな・緩衝帯の整備といった地道な対策に落とし込んで初めて、被害は減っていきます。ドローンはその全体を貫く「目」として使うのが、最も費用対効果の高い入り方です。関連情報は鳥獣害対策カテゴリーでも随時追いかけています。
よくある質問(FAQ)
Q. ドローンで直接シカやイノシシを捕獲できますか?
できません。ドローンは調査・監視・追い払いのための道具で、捕獲そのものはわなや銃といった従来の法定猟法が担います。ドローンは、その対策を効率化する支援ツールと考えてください。
Q. 夜間にサーマルカメラで調査するのに、許可は必要ですか?
必要になるのが原則です。夜間飛行は航空法の「特定飛行」にあたり、国土交通省の承認や、資格・機体認証を活かした手続きが求められます。飛ばす前に必ず確認してください。
Q. 個人でも航空法の「捜索・救助等のための特例」を使えますか?
使えません。この特例の対象は、国・地方公共団体、またはこれらから依頼を受けた者に限られます。個人が自己判断で適用することはできない点に注意が必要です。
Q. 追い払いは本当に効果がありますか?
条件次第です。自治体の実証では、獣が脅威と認識する強い刺激(実際の警戒音など)は効果が確認された一方、慣れれば効かなくなります。音や光のパターンを変え、他の対策と組み合わせることが前提になります。
Q. クマ対策にはどう役立ちますか?
出没個体の探索や行動範囲の把握、住民避難の支援に役立ちます。人が近づくと危険なクマの所在を上空から確認でき、対処側の安全確保につながります。捕殺の判断・実行は人が担います。
まとめ
鳥獣害対策のドローンは、獣をつかまえる道具ではなく、「見える化」と「追い払い」で被害を抑える調査・監視ツールです。令和5年度で164億円にのぼる農作物被害、そして過去最多を更新したクマの人身被害という深刻な現実を前に、人手を増やせない現場を支える存在として広がっています。
サーマルで夜の実態をつかみ、被害地と獣道を可視化し、必要に応じて追い払う。その一連の流れを、航空法と鳥獣保護管理法という2つのルールを守りながら回すことが要点です。
ドローンだけで被害はゼロになりません。得られたデータを電気柵・わな・緩衝帯といった地道な対策に結びつけてこそ、効果が出ます。個別テーマは関連記事や鳥獣害対策カテゴリーで、今後も追いかけていきましょう。
本記事の編集/監修は一等無人航空機操縦士(基・目・昼・25)で登録講習機関講師・修了審査員のフライトデスクが行いました
詳細は各出典をご確認ください。



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