気温が下がると、機体は同じようには飛びません。
申請も点検も通っている。風も穏やかで、空は晴れている。それでも冬は、離陸から数分で残量の減りが速いことに気づく日があります。
冬の飛行で問われるのは、寒さに耐えられるかどうかではありません。余裕がどれだけ削られているかを、離陸前に見積もれるかです。
この記事では、低温でバッテリーの電圧が落ちる仕組み、メーカーが公表している温度の境目、結露の扱い、そして冬型の気圧配置が現場の風をどう変えるかを、一次情報に当たりながら整理します。
冬の現場で変わるのは、気温ではなく余裕
寒いから飛ばさない、という判断はほとんど必要になりません。国内の平地で、機体の動作温度を下回るほどの気温になる日は限られています。
実際に効いてくるのは、同じ飛行計画が、夏よりも小さい余裕で実行されてしまうことです。飛行時間が短くなる、電圧の落ち方が急になる、レンズが曇る、指が動かない。ひとつずつは中止の理由になりませんが、重なった状態で予定どおりの飛行を押し通すと、逃げ道がなくなります。
教則は、この点を第6章の気象に関する注意事項でこう書いています。
無人航空機は、運用可能な動作環境が具体的に明示されている。運用可能な範囲内であっても、低温時や高温時には大きな影響をうけることが予想される。特に気温の低い場合はバッテリーの持続時間(飛行可能時間)が普段より短くなる可能性があるため注意が必要である。
「運用可能な範囲内であっても」という一句が要点です。カタログの温度範囲に収まっていることは、普段どおりに飛ぶことの保証ではありません。範囲内で飛ばしたうえで、性能の落ち分を計画側で吸収する必要があります。
低温でバッテリーの電圧が落ちる仕組み
教則は、リチウムポリマーバッテリーの電気的トラブルとして次の2点を挙げています。
冬季の飛行では飛行時間が半減することがある。気温が低下すると放電能力が極端に低下するためである。
リチウムポリマーバッテリーは高密度なエネルギーを大容量で出力できるが、バッテリー残量が減り、電圧低下してくると急激に出力が弱くなり、墜落の原因となるので注意する。
この2つは別々の注意点として並んでいますが、冬の現場では連続して起きます。順番に追います。
教則が書いている範囲
教則はバッテリーの用語表で、電圧と出力と容量の関係を次のように整理しています。
| 項目 | 教則の記述 | 冬に効いてくる点 |
|---|---|---|
| 電圧 | セル当たりの電圧×セル数で決まる。残量が減ると電圧は下がる | 電圧の絶対値ではなく、落ち方の速さを見る必要がある |
| 電圧降下 | 放電中の電圧降下は、バッテリーの内部抵抗によって決まる | 低温では同じ電流でも電圧の落ち込みが大きくなる |
| 出力 | 出力を一定に保つ場合、放電時電圧が低下すると必要な電流は増大する | 電圧低下と電流増加が互いを加速させる |
| 容量 | 放電時の電流の大きさや温度によって、利用可能な容量は変化する | 満充電表示でも使える電気量は減っている |
出典は教則第5版 第4章 4.4 機体の構成(無人航空機の主たる構成要素)です。温度で使える容量が変わることは、教則にはっきり書かれています。
教則が書いていない範囲
一方で教則は、「放電能力が極端に低下する」とだけ書いて、その機序には踏み込んでいません。電池の一般的な性質として、低温では電解質の中をイオンが動きにくくなるため内部抵抗が大きくなります。ここは教則の記述ではなく電池一般の性質として理解してください。
この2つをつなぐと、冬の電圧降下は次の循環になります。
- 低温で内部抵抗が大きくなる
- 同じ電流を流しても、電圧の落ち込みが夏より大きい
- ホバリングに必要な出力は変わらないので、電圧が下がった分だけ電流が増える
- 電流が増えたことで、電圧がさらに落ちる
だから冬の残量表示は、直線的には減りません。前半は普通に見えて、後半で急に落ちます。教則が別項目として挙げている「電圧低下してくると急激に出力が弱くなり、墜落の原因となる」という状態に、夏よりも早く到達するということです。
「動作環境温度」はどこまでを保証しているのか
メーカーの公表値は、機体・ジンバル・バッテリー・送信機・アクセサリーでそれぞれ別の温度範囲が定められています。ひとつの数字で代表させられません。
例としてDJI Matrice 4シリーズの公式仕様ページに載っている値を挙げます。数値はすべてメーカー公表値です。
| 対象 | 公表値 | 読み方 |
|---|---|---|
| 機体の動作温度 | -10℃〜40℃ | この範囲外は動作の対象外。範囲内でも性能は落ちる |
| ジンバルの動作温度 | -10℃〜40℃ | 機体と同じ範囲。低温では動きが渋くなることがある |
| バッテリーの充電温度 | 5℃〜40℃ | 機体の下限とは別。5℃を下回ると充電の対象外 |
| 低温充電 | 非対応と明記 | 寒い場所での充電は仕様として想定されていない |
| 送信機の動作温度 | -20℃〜50℃ | 機体より広い。送信機が動くことは機体の保証ではない |
| 送信機の充電温度 | 5℃〜40℃ | 送信機も低温では充電できない |
ここで注意すべきなのは、送信機のほうが動作温度の範囲が広いことです。手元の送信機が普通に起動して画面も明るいからといって、機体側が同じ条件で保証されているわけではありません。「送信機は動いているから大丈夫」は成立しません。
また同シリーズのバッテリーは、公表値で4セルのリチウムイオン、標準電圧14.76V、容量6741mAh、エネルギー99.5Wh、サイクル回数200回とされています。セル数と標準電圧が分かれば、教則の「セル当たりの電圧×セル数」に当てはめて、1セルあたりどの水準まで下がっているかを自分で計算できます。機種ごとの公表値を、飛ばす前に自分の手元に書き出しておいてください。
充電できない温度がある — 5℃の壁
冬の現場で最初に詰まるのは、飛行そのものではなく充電です。
先の表のとおり、充電温度の下限は機体の動作温度の下限よりも高く設定されています。例に挙げた機種では機体が-10℃まで、充電は5℃までです。気温0℃の現場では、飛べるけれども充電はできないという状態が普通に起こります。
ここを知らないまま現場に行くと、次のような行き詰まりになります。
- 車内で充電器につないだが、バッテリーが冷えていて充電が始まらない
- 充電が始まらない理由を機材の故障だと思い、時間を使ってしまう
- 予備の本数で予定を組み直すしかなくなり、飛行計画を現場で削ることになる
対策そのものは単純です。必要な本数を、暖かい場所で満充電にしてから現場に持ち込む。現場で追い充電することを計画に織り込まない。この2点だけで冬の充電の問題はほぼ消えます。
事前加温の考え方と、やってはいけないこと
冬に事前加温が語られるのは、放電能力の低下が温度で決まるからです。考え方の筋は間違っていません。ただし、やり方を間違えると別の問題を作ります。
まず整理しておきたいのは、加温の目的は「暖かくすること」ではなく「冷やさないこと」だという点です。暖かい場所で充電を終えたバッテリーの温度を、離陸まで落とさない。これが本来の狙いです。ゼロから暖める作業をするよりも、温度を維持するほうが確実で、機材に無理をかけません。
| やり方 | 評価 | 理由 |
|---|---|---|
| 暖房の効いた室内や車内で満充電にし、保温して運ぶ | これが基本 | 充電温度の条件を満たしつつ、離陸まで温度を落とさない |
| 飛行の直前まで断熱したケースに入れておく | 有効 | 外気に触れる時間を短くできる。特別な機材が不要 |
| 使い終わった直後の温かいバッテリーを次に回す順番で運用する | 有効 | 放電で温まった状態を使える。ただし高温側の警告に注意 |
| 直火・ヒートガン・ストーブの至近距離で暖める | 行わない | 局所的な過熱になる。教則は衝撃と高温を明確に危険としている |
| 湯につける、濡れた布で包む | 行わない | 教則は保管の注意として水に濡らさないことを挙げている |
機種によっては、バッテリー自身に自己発熱の機能を備えるものがあります。ただし作動する温度の範囲や残量の条件、操作の手順は機種ごとに異なります。この記事では特定の条件を数値で書きません。お使いの機体の取扱説明書で確認してください。ここを一般化して覚えると、機種が変わったときに誤った操作になります。
なお、教則が保管の注意として温度に触れているのは高温側です。「バッテリーを高温(35℃超)になる環境で保管しないこと」と書かれています。低温側の保管温度については教則に記述が見当たりませんでした。ここはメーカーの仕様で確認する領域です。
結露はどこに出るか
結露については、先に正直に書いておきます。教則第5版を全文検索しましたが、「結露」の記述は見当たりませんでした。学科試験の出題根拠にはなりません。ここから先は、教則の範囲ではなく物理と実務の話として読んでください。
結露は、空気が冷たい面に触れて露点を下回ったときに、その面に水として出てきます。冬の現場で問題になるのは、気温が低いことそのものではなく、冷えた機体を暖かい場所に入れたときです。方向が逆になりやすいので、順番を押さえてください。
| 場面 | 結露する場所 | 影響 |
|---|---|---|
| 暖かい室内から寒い屋外へ出す | 原則として出にくい | 機体のほうが暖かいため。ただし風雪に当たれば付着する |
| 冷えた機体を暖房の効いた車内に入れる | 機体表面・レンズ・基板 | 見えるのは表面だけで、内部にも同時に出ている |
| 冷えたレンズのまま撮影を始める | レンズ前面 | 映像が曇る。撮り直しになる |
| 結露したまま通電・収納する | コネクタ・基板 | 短絡や腐食の原因になる |
実務での扱いはこうなります。
- 撤収のとき、機体をすぐに暖かい車内へ持ち込まない。ケースに入れたまま、温度が上がるまで開けない
- レンズの曇りは、拭いて消えたように見えても内部には残っている。拭いて済ませない
- 現場でバッテリーを入れ替えるとき、端子に水滴がないかを見る。教則は短絡による発火の危険と、水に濡らさないことを保管の注意として挙げている
- 帰ってからの手入れを飛行の一部として時間に入れる。教則は飛行後の点検と適切な保管を明示している
冬型の気圧配置と、現場で吹く風
冬の飛行で実際に中止の理由になるのは、低温よりも風のほうが多いはずです。教則は冬の天気を次のように整理しています。
冬の悪い天気の代表は「雪」と「風」である。シベリア高気圧が優勢になり冬の季節風の吹き出しが始まると、まず気象衛星の雲写真に沿海州から日本海へ流れる帯状の雲が現れる。冬型の天気の典型は西高東低といわれるもので、天気図では西側に高気圧、東側に低気圧という気圧配置で、日本海側に雪をもたらす。
気象庁も、日本海側の雪について、寒気が日本海の上を渡るときに比較的暖かい海面から熱と水蒸気を受け取って雪雲になると説明しています。この季節風が山に当たって上昇することで、日本海側は雪の日が多くなります。一般に、寒気が強いほど、また風速が強いほど大雪になりやすいとされています。
この構図から、冬の現場では次の読み方ができます。
| 天気図で見るもの | 読み取れること |
|---|---|
| 等圧線が縦縞で間隔が狭い | 冬型が強い。北西の季節風が強く吹く。日本海側は雪 |
| 西高東低の配置がゆるむ | 季節風が弱まる。飛行の窓が開く可能性がある |
| 日本海に帯状の雲列 | すでに雪雲が流れ込む態勢。日本海側では中止の検討へ |
| 太平洋側で晴れて風が強い | 山越えの乾いた風。地形による吹き降ろしに注意 |
教則は高気圧について、北半球では時計回りに等圧線と約30度の角度で中心から外へ風を吹き出し、中心部では下降気流が発生して天気は一般的によいと書いています。低気圧はその逆です。冬型が強いときは、太平洋側で「晴れているのに風が強い」という状態が普通に起きます。晴れていることを飛行可否の根拠にしないでください。
地形による風の読み方については、同じシリーズの別記事で詳しく扱っています。冬型の季節風は地形の影響を強く受けるので、合わせて読んでいただくとつながります。
雪の扱いは、教則と標準飛行マニュアルで違う
ここは実際に確認して驚いた点なので、そのまま書きます。
教則第5版は、気象状況の確認と飛行の実施の判断について次のように書いています。
安全のため気象条件を考慮した判断をする場合、降雨時、降雪時、霧の発生時や雷鳴が聞こえる時は飛行の延期や中止が望ましい。
降雪がはっきり挙げられています。一方、国土交通省の標準飛行マニュアル①(場所を特定した申請用)と②(場所を特定しない申請用)の本文を検索したところ、「雪」「降雪」「積雪」のいずれも記載が見当たりませんでした。両マニュアルの3-1 基本的な体制に並んでいるのは次の3つです。
- 風速5m/s以上の状態では飛行させない
- 雨の場合や雨になりそうな場合は飛行させない
- 十分な視程が確保できない雲や霧の中では飛行させない
つまり標準飛行マニュアルの文言だけを機械的に当てはめると、雪は明示的な禁止事項に当たりません。ただしここで「だから雪でも飛ばせる」と読むのは誤りです。理由は3つあります。
- 降雪時は視程が確保できないことが多く、「十分な視程が確保できない」という条件で引っかかる
- 冬型が強いときは雪と強風が同時に来るので、風速の条件で引っかかる
- 教則が降雪時の延期・中止を望ましいとしている。学科の根拠であるだけでなく、機長の判断の基準になる
出典の階層を混同しないでください。学科試験の根拠は教則、申請した飛行で守る運航ルールは標準飛行マニュアルです。別の文書で、書いてあることも違います。雪はその差がはっきり出る論点です。
冬の離陸前に見る順番
ここから先は、教則や標準飛行マニュアルの条文ではなく、私が自分の運用で決めている手順です。そのまま真似するのではなく、考え方を自分の機体と現場に置き換えて使ってください。
教則が飛行前の確認として挙げている項目は、外部点検と作動点検、空域と周囲の状況、飛行に必要な気象情報、燃料またはバッテリーの残量、リモートID機能の作動状況です。冬はこの枠組みのまま、見る内容を変えます。
| 順番 | 見るもの | 冬に変える点 |
|---|---|---|
| 1 | 気温と、機体・バッテリーの公表値 | 機体の動作温度と充電温度を別々に確認する |
| 2 | バッテリーの温度と本数 | 充電は済んでいるか。現場で追い充電を前提にしていないか |
| 3 | 天気図の気圧配置 | 等圧線の間隔と縦縞。晴れていても風を疑う |
| 4 | 1本目の電圧の落ち方 | 数値ではなく傾き。ホバリングをやめたとき戻るか |
| 5 | 帰路に残す時間 | 半分に減った飛行時間から、先に帰路分を引いておく |
| 6 | 撤収の手順 | 結露を作らない収納と、手入れの時間を確保する |
4番目について補足します。冬は1本目を計測に使うという考え方が有効です。予定の飛行に入る前に、短時間のホバリングで電圧の落ち方を見る。そこで得た傾きを、その日の残りの本数に当てはめます。カタログの飛行時間ではなく、その日その場所で測った数字で計画を組み直せるからです。
5番目は、順番が重要です。飛ばしてから帰路を考えるのではなく、帰路を確保した残りで飛ばす。冬は飛行時間の絶対値が小さくなるので、この順番を逆にすると余裕がゼロになります。RTHの挙動と設定については同シリーズの別記事で扱っています。
よくある誤解の整理
| 誤解 | 実際 |
|---|---|
| 動作温度の範囲内なら普段どおり飛べる | 教則は範囲内でも低温の影響を受けると書いている。範囲内は保証ではない |
| 機体の動作温度まで下がっても充電できる | 充電の下限は機体の下限より高いことがある。例の機種は機体-10℃・充電5℃ |
| 送信機が正常に動いていれば機体も大丈夫 | 送信機のほうが動作温度の範囲が広い機種がある。別々の仕様として確認する |
| 冬の残量表示は夏と同じように減る | 後半で急に落ちる。教則は電圧低下で急激に出力が弱くなると書いている |
| 寒い屋外へ出すときに結露する | 結露は冷えた機体を暖かい場所へ入れたときに出やすい。撤収のときに注意する |
| レンズを拭けば結露は解決する | 表面に出ているなら内部にも出ている。拭いて済ませない |
| 標準飛行マニュアルに雪の禁止がないので雪でも飛ばせる | 視程と風速の条件で引っかかる。教則は降雪時の延期・中止が望ましいとしている |
| 冬型で晴れているから風は穏やかだ | 冬型が強いときは太平洋側で晴れて風が強くなる。晴天を可否の根拠にしない |
| 飛行時間が半分になるなら本数を倍にすればよい | 本数では帰路の余裕は買えない。1本ごとの余裕が小さくなっていることが問題 |
まとめ
冬の飛行は、寒さに耐える話ではなく、削られた余裕をどう扱うかの話です。
教則が書いているのは、運用可能な範囲内でも低温の影響を受けること、気温が下がるとバッテリーの持続時間が短くなること、冬季には飛行時間が半減することがあること、そして降雪時は延期や中止が望ましいことです。メーカーの公表値が定めているのは、機体・バッテリー・送信機それぞれの温度範囲と、充電できる温度の下限です。
この2つを突き合わせると、冬の判断は次の形になります。公表値の範囲に入っているかを機種ごとに確かめ、範囲内でも落ちる性能を計画の余裕で吸収できるかを見積もり、吸収できないなら計画を削るか中止する。
結露については教則に記述がありませんでした。撤収のときに冷えた機体を暖かい場所へ入れない、という一点を守るだけで大半は防げます。
雪については、教則と標準飛行マニュアルで扱いが違います。マニュアルに書かれていないことを根拠に飛ばすのではなく、視程と風速の条件に当てはめ、当てはまらなければ自分の基準で決めてください。最後に線を引くのは機長です。
冬の判断は、風・気象・機体の3つが重なります。順を追って読むと現場での組み立てがつながります。
- 教則第5版の内容を20問で確かめられます(無料):教則第5版 改正点チェック20問
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登録講習機関講師 フライトデスク 監修



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