教則第5版をやさしく読む21|5.3+5.4 操縦者のパフォーマンスと意思決定体制(CRM)【全文+講師の解説】

教則第5版をやさしく読む21|5.3+5.4 操縦者のパフォーマンスと意思決定体制(CRM)【全文+講師の解説】 ストック記事

今回は人そのものを扱う回です。5.3と5.4、あわせて1,300字ほどの短い2節ですが、内容は連載の中でもかなり毛色が違います。

疲れ。ストレス。前の晩のお酒。そしてCRM——航空の世界で使われてきた、「一人で判断しない」ための考え方。機体でも操作でもなく、飛ばす人の状態と、まわりとの関係の話です。

教則がここで書いていることのうち、私がいちばん大事だと思うのは「操縦者は疲労を感じても飛行を継続してしまう傾向にある」という一文です。気をつけろではなく、そういう傾向があると書いてある。だから対策も、根性ではなく仕組みの話になっています。

教則第5版 5.3+5.4 操縦者のパフォーマンスと意思決定体制(CRM)(全文)

出典:国土交通省「無人航空機の飛行の安全に関する教則(第5版)」(令和8年7月7日公布・令和8年7月14日適用)。読みやすさのためレイアウトを再構成し、原本で混在している英数字の全角・半角を半角にそろえています。本記事は国土交通省の公式なものではありません。

操縦者のパフォーマンスの低下

操縦者は疲労を感じても飛行を継続してしまう傾向にあるため、適切に飛行時間を管理する必要がある。操縦者が高いストレスを抱えている状態は安全な飛行を妨げる要因となるため、操縦者との適切なコミュニケーションを運航の計画(飛行計画の作成、運航体制の構築、飛行前の準備、飛行中及び飛行後の対応等の一連の運航全般に係る計画をいう。以下同じ。)に組み込む等ストレス軽減を図る必要がある。

アルコール又は薬物に関する規定

前夜に飲酒した場合でも、翌日の操縦時までアルコールの影響を受けている可能性があることに注意が必要であり、アルコール検知器を活用することも有用である。

CRM (Crew Resource Management)

事故等の防止のためには、操縦技量(テクニカルスキル)の向上は有効な対策だが、これだけでは人間の特性や能力の限界」(ヒューマンファクター)の観点からヒューマンエラーを完全になくすことはできない。これに対処するためには、全ての利用可能な人的リソース、ハードウェア及び情報を活用した「CRM(Crew Resource Management)」という概念が有効である。

CRM の効果を最大限発揮するために「TEM(Threat and Error Management)」という手法が取り入れられている。ここで「スレット(Threat)」は「エラー(Error)」を誘発する要因であり、操縦者だけではスレットやエラーの発生状況を把握することが困難な場合があり、この場合適切な対処がとれず、無人航空機が安全マージンの低下した UAS(Undesired Aircraft State:望ましくない航空機の状態)に至り、更に事故等につながるおそれがある。TEM とは、このような状態に陥らないために、補助者や関係者との相互確認、機体や送信機の警報、飛行空域周辺状況に関する最新情報の入手など、全ての利用可能なリソースを活用し、エラーにつながりかねないスレット(気象の変化、疲労、機材不具合など)の発生状況を早期に把握・管理し、万一エラーや UAS に至ったとしても事故等に至らないように適切に対処しようとする手法である。

TEM を効果的に実践するための能力は、状況認識、意思決定、ワークロード管理、チームワーク、コミュニケーションといった5つの CRM スキル(ノンテクニカルスキル)である。

安全な運航のための補助者の必要性、役割及び配置

無人航空機を飛行させる操縦者は機体の動きや操縦に集中する必要があり、離着陸エリアを含めた飛行経路の管理を操縦と同時に行うことが困難であるため、飛行準備や飛行経路の安全管理、第三者の立入管理などは補助者が主として行う必要がある。補助者は、離着陸場所や飛行経路周辺の地上や空域の安全確認を行うほか、飛行前の事前確認で明らかになった障害物等の対処について手順に従い作業を行う。

操縦者とのコミュニケーションは予め決められた手段を用いて行い、危険予知の警告や緊急着陸地点への誘導、着陸後の機体回収や安全点検の補助も行う。

無人航空機の飛行経路や範囲に応じ補助者の数や配置、各人の担当範囲や役割、異常運航時の対応方法も決めておく必要がある。

ここからは私の解説です

この節がいちばん言いたいこと

ひとことで言うと、「一人で飛ばしていても、一人で判断してはいけない」ということです。

5.3は自分の状態の話、5.4はまわりとの関係の話。バラバラに見えますが、じつは1本につながっています。自分の状態は、自分ではいちばん見えにくいからです。疲れているかどうかを、疲れている人が正しく判断できるでしょうか。——だからまわりの目と、決めておいた手順が要る。それが5.4のCRMです。

なお、この2節に〔一等〕は1か所もありません。全部が二等の範囲です。

教則は「気をつけろ」と書いていません

5.3の書き出しを、丁寧に読んでみてください。

操縦者は疲労を感じても飛行を継続してしまう傾向にあるため、適切に飛行時間を管理する必要がある。

「傾向にあるため」。ここが肝だと思っています。「疲れたら休みましょう」ではありません。疲れても続けてしまうのが人間なので、感じ方に頼らず、時間で管理しなさい——そう書いてあります。

これは、意志の問題ではなく設計の問題だという立場です。実際、現場では「あと1本だけ」「せっかく来たから」が積み重なります。それを止められるのは、飛ぶ前に決めた時間だけです。

ストレスの対策が「コミュニケーションを計画に組み込む」であること

続く一文も、同じ姿勢で書かれています。

操縦者が高いストレスを抱えている状態は安全な飛行を妨げる要因となるため、操縦者との適切なコミュニケーションを運航の計画に組み込む等ストレス軽減を図る必要がある。

「運航の計画に組み込む」。——声をかけ合いましょう、という精神論ではありません。計画の中に、あらかじめ入れておくという話です。

そして教則は、この「運航の計画」を、その場でわざわざ定義しています。

飛行計画の作成、運航体制の構築、飛行前の準備、飛行中及び飛行後の対応等の一連の運航全般に係る計画をいう

飛行中も飛行後も含むのがポイントです。つまり飛ばしている最中の声かけも、終わったあとの振り返りも、計画のうち。この定義は、次の5.4(補助者との連携)にそのままつながっていきます。

お酒——教則は「量」の話をしていません

5.3の後半は2文だけです。

前夜に飲酒した場合でも、翌日の操縦時までアルコールの影響を受けている可能性があることに注意が必要であり、アルコール検知器を活用することも有用である。

ここで思い出していただきたいのが、連載の9回目で読んだ3.1の記述です。

体内に保有するアルコール濃度の程度にかかわらず体内にアルコールを保有する状態では無人航空機の飛行を行ってはならない

濃度の程度にかかわらず。自動車の酒気帯び運転のような数値の線引きが、無人航空機にはありません。「少しなら大丈夫」という考え方が、そもそも存在しないのです。

では「前夜に飲んだお酒は、朝までに抜けているのか」。厚生労働省のe-ヘルスネットは、1時間で分解できるアルコールの量を「体重×0.1g程度」としつつ、こう付け加えています。

酵素の遺伝子型に加えて飲酒習慣によっても代謝速度は大きく異なる

個人差が大きい。——ということは、計算して「これなら抜けている」と自分で判断すること自体が危ういということでもあります。だから教則はアルコール検知器を挙げているのだと思います。感覚でも計算でもなく、測る。疲労を「時間で管理する」のと、まったく同じ考え方です。

そして、アルコールは一発で取消です

教則の第3章には、行政処分の点数表が載っています。アルコール・薬物の影響下での飛行は15点。そして処分等区分表は、こうなっています。

点数 処分等の内容
1〜2 口頭注意
3〜5 文書警告
6〜8 技能証明の効力の停止3月
9〜11 技能証明の効力の停止6月
12〜14 技能証明の効力の停止1年
15〜 技能証明の効力の取消

15点は、いきなり取消の区分です。同じ15点なのは「事故が発生した場合に危険防止措置を講じない」と「飛行計画の変更指示に従わない飛行」の2つだけ。教則が最も重く扱っている行為のひとつだと分かります。

罰則のほうも1年以下の懲役又は30万円以下の罰金です。資格を失い、罰も受ける。——5.3のあっさりした2文の裏には、これだけの重さがあります。

CRM——「腕を磨いても、ミスはなくならない」

ここから5.4です。教則の書き出しが、いきなり本質を突いています。

操縦技量(テクニカルスキル)の向上は有効な対策だが、これだけでは人間の特性や能力の限界(ヒューマンファクター)の観点からヒューマンエラーを完全になくすことはできない。

技量を上げても、エラーはゼロにならない。これは、練習を否定しているのではありません。練習だけでは足りないと言っています。

そこで出てくるのがCRM(Crew Resource Management)です。教則の定義はこうです。

全ての利用可能な人的リソース、ハードウェア及び情報を活用した「CRM(Crew Resource Management)」という概念

使えるものは全部使う。人も、機械も、情報も。——操縦者一人の頭と腕だけで安全を作るのをやめる、という考え方です。

TEM——事故に至る4段階を覚える

CRMを実践するための手法がTEM(Threat and Error Management)です。ここは用語が多いので、順番で整理します。

段階 中身
スレット(Threat) エラーを誘発する要因。教則の例=気象の変化、疲労、機材不具合など
エラー(Error) スレットに誘発されて起きる、人の間違い
UAS
(Undesired Aircraft State)
望ましくない航空機の状態。安全マージンが低下した状態
事故等 UASからさらに進んだ結果

スレット → エラー → UAS → 事故。この4段階を、まず順番で覚えてください。TEMとは、この連鎖のどこかで止めるための手法です。

ここで見逃せないのが、スレットの例に「疲労」が入っていることです。5.3で読んだ疲労は、5.4ではスレットとして扱われている。2つの節が別々の話ではないことが、ここで分かります。

そして教則は、なぜ一人では足りないのかも書いています。

操縦者だけではスレットやエラーの発生状況を把握することが困難な場合があり、この場合適切な対処がとれず…

自分のスレットは、自分では見えない。疲れている人が自分の疲れに気づけないのと同じです。だからTEMでは補助者や関係者との相互確認、機体や送信機の警報、飛行空域周辺状況に関する最新情報の入手——つまり自分の外にあるものを使う、と書かれています。

5つのCRMスキル(ノンテクニカルスキル)

教則が挙げているのは、この5つです。

スキル 現場に置き換えると
状況認識 いま何が起きているかを正しくつかむ
意思決定 続けるか、やめるかを決める
ワークロード管理 やることが一度に集中しないよう配分する
チームワーク 役割を分けて、互いに補う
コミュニケーション 見えたこと・気づいたことを伝え合う

テクニカルスキル=操縦技量/ノンテクニカルスキル=この5つ、という対で覚えるのが分かりやすいと思います。どちらも「スキル」=訓練で伸ばせるものだという位置づけになっているところが、私は好きです。性格の問題ではありません。

補助者が必要な理由は、たった1つです

5.4の最後は補助者の話です。教則が挙げる理由は、驚くほどシンプルです。

無人航空機を飛行させる操縦者は機体の動きや操縦に集中する必要があり、離着陸エリアを含めた飛行経路の管理を操縦と同時に行うことが困難であるため

同時にできないから。能力が足りないからではなく、一人では物理的に無理だからです。前回(5.2)でも、手動操縦のエラーは「視線と機体の正面方向が違うとき」「距離が離れたとき」に起きると書かれていました。操縦者の目は、機体に向いているのです。

では、補助者は何をするのか。教則から拾うと、こうなります。

いつ 補助者の仕事
飛行前 飛行準備/離着陸場所や飛行経路周辺の地上・空域の安全確認/事前確認で明らかになった障害物等の対処を手順に従って行う
飛行中 飛行経路の安全管理/第三者の立入管理/危険予知の警告/緊急着陸地点への誘導
飛行後 機体回収/安全点検の補助

そして、そのやりとりの仕方まで指定されています。

操縦者とのコミュニケーションは予め決められた手段を用いて行い

「予め決められた手段」。その場で大声を出す、ではありません。何メートル離れるならトランシーバーを使うのか、どの言葉で中止を伝えるのか——飛ぶ前に決めておくものです。5.3の「コミュニケーションを運航の計画に組み込む」が、ここで具体的な形になります。

教則は最後に、決めておくことを4つ挙げています。補助者の数/配置/各人の担当範囲や役割/異常運航時の対応方法。——「人を置く」だけでは足りないということです。

補助者の代わりになるものがある、という話

実務の話を1つ足しておきます。航空局の標準マニュアル(①②とも)の3-1には、補助者について、教則にはない一文があります。

飛行させる際には、安全を確保するために必要な人数の補助者を配置し、相互に安全確認を行う体制をとる。なお、塀やフェンス等を設置することや、第三者の立入りを制限する旨の看板やコーン等を飛行範囲や周辺環境に応じて設置することにより立入管理区画を明示し、第三者の立入りを確実に制限することができる場合は、これを補助者の配置に代えることができる。

柵やコーンで立入りを確実に制限できるなら、補助者の配置に代えられる。——補助者の役目は「そこにいること」ではなく「第三者を入れないこと」だから、目的が達せられるなら手段は代えられる、という理屈です。

同じ3-1には、補助者の立ち位置も書かれています。

補助者は、飛行経路全体を見渡せる位置において、無人航空機の飛行状況及び周囲の気象状況の変化等を常に監視し、操縦者が安全に飛行させることができるよう必要な助言を行う。

操縦者の隣ではなく、飛行経路全体を見渡せる位置。——ここは実際の現場でよく間違えられるところです。操縦者と同じものを見ていては、補助者の意味がありません。

この回の数字まとめ

  • この2節に〔一等〕は1か所もない。全部が二等の範囲
  • 疲労=「感じても飛行を継続してしまう傾向」があるため飛行時間を管理する
  • ストレス=コミュニケーションを運航の計画に組み込む。運航の計画=飛行計画の作成・運航体制の構築・飛行前の準備・飛行中及び飛行後の対応
  • アルコール=前夜の飲酒でも翌日の操縦時まで影響の可能性。アルコール検知器の活用が有用
  • (3.1)体内に保有するアルコール濃度の程度にかかわらず飛行してはならない
  • (3.1)アルコール・薬物の影響下での飛行=行政処分15点=技能証明の効力の取消/罰則は1年以下の懲役又は30万円以下の罰金
  • CRM=全ての利用可能な人的リソース、ハードウェア及び情報を活用する概念
  • TEMの連鎖=スレット → エラー → UAS(望ましくない航空機の状態) → 事故等
  • スレットの例=気象の変化、疲労、機材不具合など
  • 5つのCRMスキル(ノンテクニカルスキル)=状況認識・意思決定・ワークロード管理・チームワーク・コミュニケーション
  • 補助者が要る理由=操縦と飛行経路の管理を同時に行うことが困難だから
  • 補助者について決めておくこと=数・配置・担当範囲や役割・異常運航時の対応方法の4つ
  • (標準マニュアル)補助者は飛行経路全体を見渡せる位置で常時監視し助言。立入管理区画を明示して立入りを確実に制限できる場合は、補助者の配置に代えられる

おわりに

この回の内容は、試験のためだけに読むと、いちばん退屈な節かもしれません。数字も少なく、カタカナが多く、当たり前のことが書いてあるように見えます。

でも、私はここが教則のいちばん人間らしい部分だと思っています。疲れても続けてしまう。自分のスレットは自分では見えない。腕を磨いてもミスはなくならない。——教則は、操縦者を完璧な存在として扱っていません。そのうえで、では何をするか、を書いています。

時間で区切る。測る。決めておく。人に見てもらう。どれも「自分を信じない」ための仕組みです。長く安全に飛ばしている方ほど、こういう仕組みを持っている——というのが、私が現場で見てきた実感でもあります。

次回からは第6章「運航上のリスク管理」に入ります。まずは「6.1 運航リスクの評価及び最適な運航の計画の立案の基礎」。ここは〔一等〕の項目が多く出てくる章ですが、二等の方に関わるところもきちんと切り分けてご案内します。

出典

  • 国土交通省「無人航空機の飛行の安全に関する教則(第5版)」令和8年7月7日公布・令和8年7月14日適用
  • 国土交通省航空局「無人航空機 飛行マニュアル」(標準マニュアル①②)令和7年12月26日版 3-1
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールの吸収と分解」(1時間で分解できる量は体重×0.1g程度、代謝速度は個人差が大きい)

本記事の内容は2026年8月時点のものです。なお、教則の原本では「人間の特性や能力の限界」(ヒューマンファクター)」と閉じかっこだけが入った表記になっています。全文パートは原本の表記のまま掲載し、解説では読みやすさのために整えて引用しました。アルコールの分解速度には大きな個人差があり、時間から「抜けている」と判断できるものではありません。飲酒の翌日に飛行する予定があるときは、アルコール検知器での確認をおすすめします。

この章を、問題で確認する

ここは学科試験では「操縦者及び運航体制」の分野にあたります。読んだ直後に解くと、取り違えていた箇所がその場で分かります。

▶ 二等:無料 練習20問/無料 模試50問

▶ 一等:無料 練習20問/無料 模試70問

分野別に数をこなすなら(登録講習機関講師が作問・全問解説つき・買い切り)
二等 演習250問/演習250問+模試5セット  一等 演習261問/演習261問+模試10セット

登録講習機関講師 フライトデスク 監修

コメント

タイトルとURLをコピーしました